判旨
賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除後に、解除前に相殺適状にあった債権で延滞賃料を相殺しても、解除の効力は妨げられない。
問題の所在(論点)
賃料不払による解除権の行使後に、解除前に遡って効力を生ずる相殺(民法506条2項)がなされた場合、既に発生した解除の効果は否定されるか。
規範
賃料不払による賃貸借契約の解除がなされた後、解除前に既に相殺適状にあった債権をもって延滞賃料債権と相殺した場合、相殺の遡及効(民法506条2項)により賃料債権は対当額で消滅したとみなされる。しかし、それによって既になされた解除の効力が遡って無効に帰することはない。
重要事実
賃借人が賃料を支払わず、これを受けて賃貸人が賃貸借契約を解除した。解除後になって、賃借人は解除前に既に賃貸人に対して有していた自らの債権(自働債権)と、延滞賃料債権(受働債権)を相殺する旨の意思表示を行った。賃借人は、相殺の遡及効によって解除時点での賃料不払という事実が消滅するため、解除は無効であると主張して争った。
あてはめ
本件において、賃貸借契約は賃料不払という債務不履行を理由に適法に解除されている。解除後に相殺の意思表示がなされ、相殺適状の時点(解除前)に遡って賃料債権が消滅したとみなされるとしても、解除権行使時に不払の事実があったことは動かない。解除権は行使によって確定的に効力を生ずるものであり、その後に賃料債務が遡及的に消滅したとしても、一度有効に発生した解除の効果を覆す理由にはならない。したがって、本件解除は有効なままである。
結論
賃料不払による解除は有効であり、その後の相殺によって解除が無効になることはない。
実務上の射程
賃借人による「後出しの相殺」による解除逃れを認めない実務上の定石。答案では、解除の有効性を論じる際に、相殺の遡及効(506条2項)と解除の確定的な効力の関係を整理する文脈で使用する。
事件番号: 昭和34(オ)1191 / 裁判年月日: 昭和37年8月14日 / 結論: 棄却
賃貸借契約が、賃料不払のため適法に解除された以上、たとえその後賃借人が費用償還請求権を自動債権とする相殺の意思表示により、右賃料債務が遡つて消滅しても、解除の効力に影響はない。