一 建物賃貸借契約が賃料不払に因つて解除された後、賃借人の相殺の意思表示によつて賃料債務が遡つて消滅しても、契約解除の効力に影響はないものと解すべきである。 二 法律解釈の根拠・理由を判決に示さなくても、理由不備の違法があるとはいえない。
一 相殺の遡及効が契約解除に及ぼす影響 二 法律解釈の根拠を判示することの要否
民法506条2項,民法541条,民訴法395条1項6号,民訴法191条1項3号
判旨
相殺の遡及効(民法506条2項)は、既に適法になされた契約解除の効力を妨げるものではない。したがって、債務不履行に基づき契約が解除された後に相殺の意思表示をしても、解除の効力は維持される。
問題の所在(論点)
債務不履行に基づく契約解除がなされた後に、相殺の意思表示がなされた場合、相殺の遡及効によって解除の効力は否定されるか。民法506条2項の遡及効と解除の効力の優劣が問題となる。
規範
民法506条2項は、相殺の意思表示が双方の債務が互いに相殺に適するに至った時に遡って効力を生ずる旨規定している。しかし、この遡及効は、既に有効になされた契約解除の効力に対しては何ら影響を及ぼすものではない。
重要事実
上告人と相手方との間で契約が締結されていたが、債務不履行を理由として、既に契約解除の意思表示がなされた。その後、上告人が相殺の意思表示を行い、相殺の遡及効によって解除の原因となった債務不履行自体が消滅し、解除の効力も遡って消滅すると主張して争った。
あてはめ
本件において、契約は相殺の意思表示がなされる前に既になされた解除によって適法に終了している。相殺の意思表示により、自働債権と受働債権が相殺適状の時点に遡って対当額で消滅するとしても、それは債権債務関係を事後的に清算する効果を持つに過ぎない。既に解除権が行使され、契約関係を解消させたという法的事実に影響を与えるものではないと解される。
結論
相殺の遡及効は解除の効力に影響を与えない。したがって、解除後に相殺を行っても解除の効果は覆らず、上告人の主張は認められない。
実務上の射程
債務不履行を理由とする解除を阻止するためには、解除の意思表示が到達する前に相殺を完了させておく必要がある。答案上は、解除の有効性を論じる際、解除後に相殺が援用されたとしても解除の効力は維持されることを示す際に本判例を引用する。
事件番号: 昭和30(オ)530 / 裁判年月日: 昭和32年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人に対して有する費用償還請求権等の債権を自働債権とする相殺の意思表示が、賃貸人による賃貸借契約解除の意思表示の後になされた場合、その相殺によって契約解除の効力は妨げられない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)は、本件家屋の修繕費として6,280円を支出したが、賃料の支払を怠った。賃貸…