昭和二八年一月一五日の前後に現金四五万円を一口の消費貸借として貸し付けた趣旨の主張に対し、現金に金員の授受がなされた回数としては七、八回にわたるけれどもその授受された金員を一括して右合計金四五万円について同日頃一口の消費貸借がなされた旨認定判示している以上、当事者の主張に基づかない事実を認定判示した違法はない。
一口の消費貸借成立の主張に対し数回にわたる金員授受の事実を認定判示した事例。
民法587条
判旨
金銭の授受が数回にわたる場合であっても、それらを一括して一口の消費貸借として認定することは弁論主義に反しない。一個の消費貸借事実を認定するにあたり、数回にわたる授受の一々の日時、場所、金額等を具体的に判示する必要はない。
問題の所在(論点)
当事者が「特定の日における一口の貸付け」を主張している場合に、裁判所が「複数回にわたる授受を合計した一口の貸付け」と認定することが、弁論主義の適用範囲(主要事実の不一致)に抵触するか。また、その際の事実認定にどの程度の具体性が求められるか。
規範
当事者の主張が一定の期日における一口の貸付けであったとしても、裁判所が実態として数回にわたる金員授受を一括した一口の消費貸借契約であると認めることは、主張の趣旨に沿うものとして許容される。また、一個の消費貸借事実の認定において、その内訳となる金員授受の個別具体的な日時、場所、金額をすべて詳細に判示することは要しない。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)に対し「昭和28年1月15日頃、現金45万円を貸し付けた」と主張した。これに対し原審は、1月頃から2月頃までの間に7、8回にわたって合計45万円が授受された事実を認定し、これを一口の消費貸借として認容した。上告人は、原審が主張に基づかない事実を認定し、かつ授受の詳細を判示していない点は違法であるとして上告した。
あてはめ
被上告人の主張は、1月15日の前後に合計45万円を一口の消費貸借として貸し付けた趣旨と解するのが相当である。原審が認定した「7、8回にわたる金員授受」は、現実の授受回数を指すにすぎず、それらを一括して合計45万円の一個の消費貸借が成立したと判示したものと理解できる。したがって、当事者の主張する訴訟物としての貸金債権の同一性の範囲内であり、主張に基づかない事実を認定した違法はない。また、一個の消費貸借を認定する以上、内訳となる個別の授受の詳細は必須の判示事項ではない。
結論
原判決に違法はなく、上告を棄却する。複数回の授受を合算して一口の消費貸借と認定することは適法である。
実務上の射程
弁論主義における「主張と認定の不一致」が問題となる場面で、特に金銭消費貸借の個数(一口か分割か)に関する規範として機能する。当事者が一個の契約として主張している以上、その構成要素たる金員授受の態様が主張と多少異なっても、訴訟物の同一性を損なわない範囲であれば、裁判所による合理的な解釈・認定が認められることを示している。
事件番号: 昭和35(オ)8 / 裁判年月日: 昭和38年2月26日 / 結論: 棄却
本案の裁判に対する上訴とともに訴訟費用の裁判に対し不服が申し立てられた場合においても、本案の裁判に対する上訴の理由がないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は許されない。(昭和二九年一月二八日第一小法廷判決、民集八巻一号三〇八頁参照)。