判旨
公職選挙法上の自書式投票において、候補者の氏名の一部が混記されたと疑われる記載であっても、その称呼が特定の候補者のものに酷似していると認められる場合には、当該候補者への有効投票と解するのが相当である。
問題の所在(論点)
自書式投票において、複数の候補者の氏名の一部が混同されたような記載(いわゆる混記投票)がある場合、その効力および帰属先をいかに決定すべきか。
規範
投票の効力判定(公職選挙法第68条1項)において、候補者の氏名以外の事項を記載した投票であっても、それが特定の候補者を指すことが客観的に推認できる場合には有効と解される。その判断にあたっては、記載された文字の称呼が、各候補者の氏名の称呼といかに類似しているか、または混記の蓋然性がどの程度あるかという客観的側面から判断すべきである。
重要事実
選挙において「D俊与」と「D垣健一郎」という二人の候補者が存在した。争点となった60票の投票用紙には、両者の氏名の一部を混記したとも、あるいは一方の氏名を記載しようとしたとも取れる内容が記されていた。原審は、当該記載が「D俊与」の称呼に似ているというよりは、「D垣健一郎」の称呼に酷似していると判断した。
あてはめ
本件における60票の記載内容を検討すると、その記載自体から「D俊与」の『D』と「D垣健一郎」の『健一郎』を混記したものと断定することはできない。むしろ、記載された文字の音数や響きを検討すると、「D俊与」という称呼よりも「D垣健一郎」の称呼に著しく類似(酷似)していると評価できる。したがって、客観的な投票の記載から読み取れる意向は、D垣健一郎への投票であると認めるのが相当である。
結論
本件投票はD垣健一郎に対する有効投票と認められ、原判決の判断に違法はない。
実務上の射程
公職選挙法における有効投票の解釈、特に「他事記載(68条1項5号)」や「氏名以外の記載(同法46条)」の限界に関する判断枠組みを示すものである。答案上は、誤字・脱字や一部混記がある場合でも、称呼の酷似性に着目して有効性を救済する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)646 / 裁判年月日: 昭和32年5月7日 / 結論: 棄却
Dと記載された投票は、候補者Aの氏名を誤記したものとは認められない。