判旨
当事者が明示的に主張していない事実であっても、訴訟の経過や証拠の援用状況から、黙示的に主張したものと解し得る場合には、裁判所がこれを認定しても弁論主義(旧民訴法186条)には違反しない。
問題の所在(論点)
当事者が書面や口頭弁論で明示的に主張していない事実について、証人の供述内容を援用するなどの訴訟経過から「黙示の主張」があったと認定し、判決の基礎とすることは許されるか。
規範
弁論主義の原則の下、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎にすることはできない。しかし、主要事実について当事者が直接的な言葉で明示的に述べていない場合であっても、提出された証拠の趣旨や尋問における供述内容、およびその証拠を当事者が援用しているといった訴訟の全経過を総合的に考慮し、当事者が当該事実を「黙示的に主張」したものと解することが可能であれば、裁判所はその事実を認定できる。
重要事実
被上告人は、相手方との間で特定の合意(所論合意)があったことを前提としていた。記録上、証人Dが「相手方は春までに未払分を解決すると言っていた」「払わなければ処分して代金に充当するつもりだった」旨を供述しており、被上告代理人は原審においてこの証言を援用していた。しかし、上告人は、被上告人が当該合意の成立を明示的に主張していないにもかかわらず原審がこれを認定したのは、旧民訴法186条(弁論主義)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では、証人Dの供述により、代金支払の期限や支払不能時の担保処分に関する具体的なやり取りがあったことが示されている。被上告人がこの証言を裁判において援用している事実は、単に証拠を提出したにとどまらず、その証言内容に含まれる事実関係を自らの主張として取り込む意思があったことを推認させる。このような訴訟の経過に照らせば、被上告人は当該合意が黙示的に成立していることを主張したものと解するのが相当である。したがって、原審がこの事実に依拠したことに手続上の違法はない。
結論
黙示の主張が認められるため、弁論主義違反(旧民訴法186条違反)には当たらず、上告は棄却される。
実務上の射程
弁論主義における「主張」の有無を柔軟に判断する「黙示の主張」の法理を示す。司法試験においては、主要事実の主張が欠けているように見える問題で、証拠調べの結果や当事者の訴訟態度から、その事実が主張されていると構成できるか(あるいは釈明権行使の要否)を論じる際の根拠となる。ただし、何でも黙示の主張と認めると相手方の不意打ちになるため、証拠の援用状況等、主張されたと言えるだけの客観的なプロセスが必要である点に留意する。
事件番号: 昭和34(オ)197 / 裁判年月日: 昭和36年9月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判所が売買契約の成立を認定する場合であっても、当事者が予備的に主張した通謀虚偽表示の抗弁について判断を遺脱し、かつ証拠資料の合理的な解釈を怠ったときは、審理不尽・理由不備として破棄を免れない。 第1 事案の概要:上告人は、売買の成立を否定するとともに、仮に売買があったとしてもそれは通謀虚偽表示で…