人権に関する世界宣言に違反するという上告理由は法令違背を理由とするものではない。
人権に関する世界宣言違反の上告理由の適否
判旨
自作農創設特別措置法による農地買収は公共のために行われるものであり、同法所定の買収対価は憲法29条3項にいう正当な補償にあたるため、同法による買収は合憲である。また、世界人権宣言は条約や法令ではないため、これに基づく違憲・違法の主張は認められない。
問題の所在(論点)
1.自作農創設特別措置法による農地買収およびその対価が、憲法29条3項の定める「正当な補償」に反し違憲とならないか。2.世界人権宣言の違反を理由として、国内における処分の違憲・違法を主張できるか。
規範
1.憲法29条3項の「正当な補償」とは、公共のために財産権を制限する場合に、その性質や目的に照らし、当時の社会的経済状況の下で合理的に算出された相当な額を指す。2.世界人権宣言は、日本も採択した宣言ではあるが、それ自体が直接的に法的拘束力を持つ条約や国内法令には該当しない。
重要事実
上告人は、自作農創設特別措置法に基づく農地の買収処分を受けた。これに対し、上告人は(1)同法による買収は世界人権宣言17条に違反し、憲法が保障する財産権を侵害するものであること、(2)法令が定める期限を徒過してなされた買収は違法であること、(3)買収後に町村合併があり、上告人が在村地主となったことで買収の適法性が失われたこと等を主張して、買収の無効と所有権の確認を求めた。
あてはめ
1.本件農地買収は同法に基づき「公共のため」になされたものである。また、同法が定める買収対価は、当時の社会情勢や制度目的に照らせば「正当な補償」と解するのが相当であり、憲法29条3項に反しない。2.世界人権宣言は条約や法令ではないため、これを直接の根拠として国内処分の違法を導くことはできない。3.買収期限については、根拠となる施行令の規定が既に削除されており違法はない。また、買収後の事情(町村合併による地主の地位の変化)は、既になされた買収処分の適否に影響を及ぼさない。
事件番号: 昭和25(オ)35 / 裁判年月日: 昭和29年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項の「正当な補償」とは、必ずしも常にその当時の完全な価格と一致すべきものではなく、合理的算出方法により決定された相当な額であればよい。自作農創設特別措置法による農地買収価格は、農地改革という社会変革の公共の利益に照らし、正当な補償の範囲内に属する。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創…
結論
本件農地買収は合憲かつ適法であり、上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
農地改革という特殊な歴史的事例における「正当な補償」の判断を示した重要判例である。答案上では、補償額の算定基準が当時の社会経済状況に照らし合理的であれば足りるとする「相当補償説」のリーディングケースとして活用できる。また、世界人権宣言の法的性質(非拘束性)に言及する際にも参照される。
事件番号: 昭和34(オ)114 / 裁判年月日: 昭和35年12月2日 / 結論: 棄却
一 自作農創設維持の事業により創設された自作地でその旨の登記を経由したものであつても、当然に遡及買収から除外されるものではない。 二 偽造の委任状に基づき作成された公正証書が債務名義の場合には請求異議の訴によりその執行力の排除を争うことができる。
事件番号: 昭和35(オ)1426 / 裁判年月日: 昭和37年9月7日 / 結論: 棄却
一 農地買収計画後一〇年以上経過して行われた買収処分も必ずしも無効とはいえない。 二 農地買収を不法行為として損害賠償を請求するについての時効期間の起算日は賠償を請求し得べき事実を知つた日と解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)355 / 裁判年月日: 昭和38年12月19日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第五条第四号の規定による主務大臣の指定する土地に関する件(昭和二三年一月二九日農林省告示第一〇号)は、耕地整理法に基づき耕地整理を施行した土地で宅地としての利用を増進する効果を伴つたもののうち、その施行が都市計画法施行以前に設立された耕地整理組合によつてなされたものに限り、これをもつて自作農創設特別…
事件番号: 昭和32(オ)577 / 裁判年月日: 昭和36年1月25日 / 結論: 棄却
一 昭和二五年政令第二八八号第二条第一項本文かつこ内の規定が、自作農創設特別措置法によつて売渡を受けた農地等を自ら耕作することをやめた場合等について、農業に精進する見込のある者がない場合に、その農地を政府に譲渡せしめることにしているのは憲法第二九条第三項に違反しない。 二 昭和二五年政令第二八八号施行令第一四条で定める…