一 農地買収計画後一〇年以上経過して行われた買収処分も必ずしも無効とはいえない。 二 農地買収を不法行為として損害賠償を請求するについての時効期間の起算日は賠償を請求し得べき事実を知つた日と解すべきである。
一 自作農創設特別措置法によつて定められた買収計画に基づき計画後一〇年以上経過して行われた買収処分を適法とした事例 二 農地買収を不法行為として損害賠償を請求するについての時効の起算日
自作農創設特別措置法9条
判旨
農地買収令書の交付が著しく遅延した場合であっても、当初の買収計画で定められた対価による買収は、憲法29条3項の正当な補償に反せず有効である。また、買収時期として過去の日付が記載された令書であっても、その内容が実現不能として無効になることはない。
問題の所在(論点)
行政処分としての農地買収令書の交付が長期間遅延した場合において、①物価騰貴を反映しない当初の買収対価による買収が憲法29条3項の「正当な補償」に反し無効となるか、②過去の買収時期を指定した令書による処分が内容の実現不能として無効となるか。
規範
自作農創設特別措置法に基づく買収対価は、農地の生産力等に基づき合理的に算出されたものであれば、憲法29条3項にいう正当な補償に当たる。その後、社会経済情勢の変動により諸物価が騰貴したとしても、当然に買収対価を増額すべき義務はなく、買収令書の交付が遅延したからといって、令書交付時の価格を基準に算定し直すべき理由はない。また、令書に記載された買収時期が交付時点で既に経過していても、それにより直ちに内容が実現不能となり無効となるものではない。
重要事実
群馬県知事は、昭和23年に本件土地について買収令書交付に代わる公告を行ったが、その後、買収処分が完結していないと判断され、昭和34年12月に至り改めて買収令書を上告人に交付した。この令書には買収期日が昭和22年10月2日と記載されていた。上告人は、当初の公告から10年以上経過した後の令書交付による買収は、物価騰貴を考慮していないため正当な補償を欠き無効であること、及び過去の日付を買収期日とする内容は実現不能で無効であることを主張した。
事件番号: 昭和34(オ)655 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
人権に関する世界宣言に違反するという上告理由は法令違背を理由とするものではない。
あてはめ
①について、本件農地の買収対価は当初の買収計画により既に定められており、当時からその価格での買収が予定されていた。たまたま手続上の理由で令書交付が遅延したとしても、物価変動に応じて対価を修正すべき法的根拠はなく、憲法上の正当な補償の要請に反するとはいえない。②について、令書記載の時期が既に経過していても、令書の交付自体により買収の効力が発生するという行政処分の性質に鑑みれば、法的に内容が実現不能であるとまでは断定できない。
結論
本件買収令書の交付による買収は有効である。物価騰貴に伴う対価の不均衡や、記載された買収時期の経過は、処分の効力を否定する事由にはならない。
実務上の射程
損失補償における「正当な補償」が、必ずしも処分時の時価と完全一致することを要求しない点(農地改革の特殊性)を示す。また、行政処分の効力発生時期と、書面上の予定時期の不一致が直ちに処分の無効事由(内容の実現不能)にはならないという解釈の指針として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)59 / 裁判年月日: 昭和37年2月27日 / 結論: 棄却
一 異議決定庁が宥恕すべき事由がないのに、期間経過後の異議申立を受理して実体的判断をしたという違法は、異議決定を当然無効ならしめる瑕疵ではない。 二 行政処分の無効確認請求事件において、該処分の瑕疵が取消原因に過ぎないものであれば、右処分が無効でないとする判決の理由説示に欠くるところがあつても、これをもつて民訴第三九五…
事件番号: 昭和42(行ツ)65 / 裁判年月日: 昭和43年6月13日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法による買収計画の公告および承認があつた後、買収令書の交付または交付に代わる公告が行なわれた事跡がなく、「買収の時期」より十余年も経過して後に、農地法施行法第二条第一項第一号の規定に依拠し、あらたに買収令書を交付して買収処分をすることは許されない。
事件番号: 昭和28(オ)1266 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
農地所有権の移転後、移転登記未経由の間に登記簿上の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分は、当然無効と解すべきではない
事件番号: 昭和33(オ)308 / 裁判年月日: 昭和36年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、買収令書の交付が買収計画で定められた買収時期より遅れたとしても、直ちに買収処分が違法となるわけではない。当初の公告の瑕疵を補正する趣旨で後になされた令書交付は、買収計画の時期に遡って所有権移転の効力を生じさせる。 第1 事案の概要:不在地主である上告人…