判旨
裁判所が当事者の提出した証拠では損害額を確定できないと判断した場合において、特段の事情がない限り、自ら釈明権を行使して立証を促したり職権で証拠調べを行う義務はない。
問題の所在(論点)
当事者の立証が不十分で事実認定が困難な場合、裁判所には釈明権を行使して立証を促したり、職権による証拠調べを行うなどの義務(釈明義務)が生じるか。
規範
民事訴訟における弁論主義の原則に基づき、事実の主張および証拠の提出は当事者の責任と負担において行われるべきものである。したがって、裁判所が当事者の提出した証拠によって事実(損害額等)を認定できないと判断した場合であっても、特段の訴訟経過がない限り、裁判所が自ら釈明を求めて事実関係を闡明し、立証を促し、あるいは職権で証拠調べを行うべき義務までは負わない。
重要事実
上告人(原告)は、相手方の行為により得べかりし利益を喪失したとして損害賠償を請求した。原審は、上告人が提出・援用した証拠方法によっては、損害額がいくらであるかを明確に認定することができないと判断した。これに対し上告人は、裁判所が自ら釈明権を行使して事実を明らかにしたり、立証を促したり、職権で証拠調べを行うべきであったのにこれを怠った(審理不尽・理由不備)として上告した。
あてはめ
本件訴訟の経過に照らすと、原告が提出した証拠では損害額の算定が不可能であるという原審の判断は、証拠の取捨選択および事実認定という裁判所の合理的な裁量の範囲内である。また、記録上の訴訟経過を考慮しても、裁判所が原告に有利な判断を導くためにあえて釈明を求めて事実を闡明したり、証拠提出を促したり、職権で証拠調べをすべき法的義務を負うような特殊な状況(筋合)は認められない。
結論
裁判所に釈明義務や職権証拠調べの義務があるとはいえず、原審の判断に審理不尽の違法はない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
弁論主義の限界としての釈明権(釈明義務)の範囲を画する判例である。裁判所による「立証の示唆」は義務ではないことを原則としつつ、訴訟の進行状況によっては義務が生じうる余地(特段の事情の存否)を検討する際の否定的な基準として用いることができる。
事件番号: 昭和33(オ)540 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が明らかに争っている事実を、裁判所が証拠に基づかず擬制自白が成立したものとして認定することは、事実認定の法則に反し違法である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)らが陸奥湾内で水底電線を引揚げたことにより損害を受けたとして損害賠償を請求した。被上告人は、引揚屯数約104トン…
事件番号: 昭和34(オ)39 / 裁判年月日: 昭和36年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が原審の認定しない事実を前提とするものや、実質的に原審の適法な証拠取捨・事実認定を非難するにすぎない場合は、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の事実認定に違法があるとして上告を申し立てた。しかし、その主張の内容は、原審が認定した事実とは異なる事実を前提とするものや…