判旨
借家法上の解約申入れの「正当の事由」の存否は、賃貸人側の公益的事由と賃借人側の個人的な諸事情(私益)を比較考量して判断すべきである。また、その判断の基準時は解約申入れ時であるが、申入れ後の事情であっても申入れ時の事情が存続・強化されたと認められる範囲で考慮できる。
問題の所在(論点)
借家法における解約申入れの「正当事由」を判断する際、賃貸人側の公益的事由と賃借人側の個人的事情をどのように比較考量すべきか。また、解約申入れ後に生じた事情を判断の材料とすることができるか。
規範
解約申入れの正当事由(旧借家法1条の2、現借地借家法28条参照)の存否は、賃貸人及び賃借人双方が建物の使用を必要とする事情(公益的事由を含む)を比較考量して決すべきである。また、正当事由の有無は解約申入れ時を基準として判断されるが、その後に生じた事態であっても、申入れ時に存在した事情が継続し、あるいはそれを具体化・強化する性質を持つものであれば、判断の資料とすることができる。
重要事実
被上告人(賃貸人)は学校法人であり、教育環境の改善という公益的目的から、本件家屋の解約を申し入れた。本件家屋は学校の運動場を分断する位置にあり、定員160名当時から運動の障害となっていた。これに対し上告人(賃借人)らは、居住の継続を必要とする個人的事情を主張して争った。原審は、解約申入れ後の事情である「定員増加」や「校庭の状況変化」も考慮した上で、正当事由を認めた。
あてはめ
本件では、賃貸人側には教育環境の整備という公益的事由があり、これが賃借人側の個人的な居住の事情を上回ると判断される。また、原審が考慮した定員や校庭の状況は解約申入れ後の事情であるが、そもそも申入れ時点において本件家屋が運動場を中断し障害となっていた事実は存在した。申入れ後の事情は、申入れ時に既に存在した支障が原審の弁論終結時まで存続し、あるいは強化されたことを示すものにすぎないため、正当事由の判断において参酌しても違法ではない。
結論
解約申入れには正当事由がある。公益的事由と私益を比較考量し、申入れ時の事情を主としつつその後の事情を補足的に考慮した原判決に違法はない。
実務上の射程
正当事由の判断における「公益的側面」の考慮を認めた点、及び基準時(申入れ時)以降の事情を「申入れ時の事情の存続・強化」として取り込む構成は、現在の借地借家法28条下の実務でも重要な指針となる。答案上は、申入れ後の事情をあてはめる際の論理構成(蛇足的判示・事情の強化)として有用である。
事件番号: 昭和31(オ)334 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の賃貸借において、賃貸人が解約の申入れをする際に必要とされる正当事由(旧借家法1条の2)の有無は、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)と被上告人(賃貸人)との間の建物賃貸借契約において、被上告人が解約の申入れを行った。上告人は、当該解約申入れには正当事由…