判旨
再審事由としての「判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したこと」(民訴法338条1項10号)の成否について、上告審判決が上告理由に対し、独自の理由に基づき上告を採用し得ない理由を説示している場合には、判断遺脱の違法は認められない。
問題の所在(論点)
上告審判決において、上告理由に対する判断が示されているといえるか。具体的には、再審原告が主張する法令解釈の誤りへの指摘に対し、裁判所が別個の理由を示して上告を退けた場合に、民訴法338条1項10号の「判断遺脱」に該当するか。
規範
民事訴訟法338条1項10号(旧民訴法420条1項10号)の判断遺脱が認められるためには、判決の主文に影響を及ぼすべき重要な事項について、裁判所が何ら判断を示さなかったことが必要である。裁判所が判決の理由中で独自の論理を用いて上告理由を排斥する旨を説示している場合には、判断を遺脱したものとはいえない。
重要事実
再審原告は、上告審判決が、控訴審判決における自創法(自作農創設特別措置法)5条1項の解釈誤りに関する論旨に対し、社会通念や行政法の原理に背反する形で判断を遺脱したと主張して、再審の訴えを提起した。
あてはめ
本件の上告審判決は、控訴審判決に法令解釈の誤りがあるとの論旨に対し、判決文中の理由において、結局のところ上告理由を採用できない理由を説示している。これは、再審原告の主張に対し、裁判所が独自の解釈ないし観察に基づき検討を行った結果であり、主張された事項について考慮を怠ったものではない。したがって、再審原告の主張は、単に上告審判決の内容を正解しないか、独自の観察に基づく不満を述べるものにすぎない。
結論
本件再審の訴えには判断遺脱の違法は認められず、再審の訴えを却下する。
実務上の射程
事件番号: 昭和28(ヤ)3 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が上告理由について調査の必要がないと判断して棄却した場合には、民事訴訟法における判断の遺脱(再審事由)は認められない。 第1 事案の概要:再審原告は、最高裁判所が下した原判決(上告棄却判決)に対し、再審事由(判断の遺脱)があるとして再審の訴えを提起した。原判決は、当時の「最高裁判所におけ…
再審事由である「判断遺脱」の存否が争点となる場面で活用できる。判決理由中で、当事者の主張に対し直接的または間接的に判断が示されている限り、その内容が当事者の意に沿わないものであっても判断遺脱には当たらないという限定的な解釈を示す際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(ヤ)6 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】判決に影響を及ぼすべき重要事項について判断の遺脱がない場合には、民事訴訟法上の再審事由(現行法338条1項9号)は認められない。 第1 事案の概要:再審原告らは、自作農創設特別措置法14条の適用および同条の違憲性を争点としていた。原上告審判決(本案判決)は、同条が適用されるべきこと、および同条が違…
事件番号: 昭和33(ヤ)31 / 裁判年月日: 昭和35年11月9日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】再審事由としての判断遺脱について、判決正本が当事者の代理人に送達された場合には、特段の事情がない限り、その時点で判決内容および判断遺脱の事実を覚知したものと推定される。 第1 事案の概要:再審原告は、昭和28年12月23日に言い渡された最高裁判決に判断の遺脱があるとして、昭和33年12月24日に再…
事件番号: 昭和32(ヤ)25 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】上告裁判所は不服申立ての限度でのみ調査義務を負うため、上告理由として主張されていない事項や、適法な期間経過後に提出された補充書記載の事項について判断を示さなくとも、判決に影響を及ぼすべき重要な事項の判断遺脱(民事訴訟法第338条1項9号)には当たらない。 第1 事案の概要:再審原告は、前審の上告判…
事件番号: 昭和33(ヤ)8 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】農地買収計画の承認は行政処分に該当せず、その後に当該計画や売渡処分の修正がなされたとしても、民事訴訟法上の再審事由(判決の基礎となった行政処分の変更)には当たらない。 第1 事案の概要:再審原告Aは、土地の所有権や買収計画の適否を争っていた。第二審判決は、計画樹立時に県道用地として買収済であればA…