判旨
債務者が債権証書を保持していない場合であっても、他の証拠を総合して弁済の事実を認定できるのであれば、特段の違法はない。また、特定の事実が存在しても、当然に占有者が「所有の意思」を有していると認定されるわけではない。
問題の所在(論点)
債権証書が債務者の手元にない場合に弁済の事実を認定できるか、および特定の事実から占有者の「所有の意思」が当然に導き出されるか。
規範
弁済の事実の認定については、債権証書が債務者の手元にあるか否かにかかわらず、諸般の証拠を総合して合理的に判断すべきである。また、取得時効の要件たる「所有の意思」の有無についても、外形的・客観的な占有事実に照らして総合的に判断されるべきであり、一部の事実から直ちに認定が強制されるものではない。
重要事実
本件において、上告人は債務が既に弁済されていると主張したが、債権証書(乙三号証の一ないし六)は上告人の手元には存在しなかった。一方で、甲一号証は上告人の手元に存していた。また、上告人およびその先代が昭和10年以降、本件山林について所有の意思を持って占有を継続していたか否かが争点となったが、原審はこれを否定した。
あてはめ
弁済について、原審は挙示された各証拠を総合して弁済の事実を肯定している。債権証書が上告人の手元にないという事実はあるものの、他の証拠(甲一号証を含む)との照らし合わせにより、弁済の認定は可能である。所有の意思について、上告人が主張する事実に照らしても、昭和10年以降に所有の意思をもって占有を開始したと認定することは論理的に必然ではなく、原審の判断に違法はない。
結論
弁済の認定および占有の性質に関する原審の事実認定に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和33(オ)258 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審が行った証拠の取捨選択および事実認定が適法である限り、上告審においてこれと異なる事実を主張して原判決を非難することは、上告理由にならない。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が認定した売買の事実について、証拠の取捨選択や事実認定に誤りがあるとして、原判決の違法を主張し、上告を申し立てた。なお、…
民法186条1項の所有の意思の推定を覆す事情や、弁済の証明責任に関する事実認定の限界を示すものである。実務上は、債権証書の不在が直ちに弁済の否定に繋がるわけではないことを確認する際に用いる。
事件番号: 昭和31(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和33年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に不動産の所有権の帰属や、過去の調停条項が指し示す建物の特定について争いがある場合、互いに譲歩して紛争を終結させる合意は和解契約としての効力を有する。 第1 事案の概要:上告人は昭和21年8月以降、松山市内の土地家屋(通称D)を使用してきたが、その所有権がEに留保されているのか、上告人に移…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和33(オ)736 / 裁判年月日: 昭和35年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転登記請求訴訟において、登記原因を贈与から売買や代物弁済に変更することは、所有権に基づく請求という同一の訴訟物に関する主張の変更にすぎず、請求の変更(民訴法143条)には当たらない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件山林の所有権移転登記を求めて提訴した。当初は登記原因を「贈与」と…
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…