判旨
頼母子講の清算人が、特定の講員に返戻すべき金員として他者から取立て、保管していた金銭は、業務上の占有に係る他人の物として横領罪の客体となり得る。
問題の所在(論点)
頼母子講の清算人が、特定の講員への分配金として取立て・保管していた金銭を自己の支配下に置いた場合、業務上横領罪の客体である「他人の物」を「占有」しているといえるか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「他人の物」とは、自己が占有する他人の所有物を指し、委託の趣旨に反して領得する意思をもって処分した場合には同罪が成立する。清算事務において、特定の受益者のために徴収・保管している金銭は、清算事務という業務上の委託関係に基づき占有する他人の物にあたる。
重要事実
上告人は、解散した頼母子講の清算人であった。上告人は、講員の一人であるDに対し返戻すべき金員として、既落札者5名から各3万円、合計15万円を取立て、これを保管していた。また、上告人自身もDに対して掛戻金として3万円を支払うべき立場にあり、これらの金員をDのために管理・保管する状況にあった。
あてはめ
上告人は頼母子講の清算人という地位に基づき、講員Dに分配すべき金員を取立てている。この15万円は、清算事務の過程でDに帰属させるべきものとして、特定の使途(Dへの返戻)を定めて委託を受け、占有している金員であるといえる。上告人自身が支払うべき3万円についても、清算事務の一環としてDのために管理すべき金員であり、これらを私的に保管し続ける行為は、委託の任務に背いて自己の所有物と同様に扱う不法領得の意思の発現と解される。
結論
上告人が清算人として取立て保管していた合計15万円は、業務上占有する他人の物にあたり、業務上横領罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、頼母子講という特殊な組合組織の清算場面において、清算人が特定の講員のために徴収した金銭の他者所有性を認めたものである。答案上では、事務処理の過程で特定人のために徴収・保管された金銭が、単なる債務の不履行にとどまらず、委託物としての性質を帯びることを示す論理として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1295 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおける組合類似の頼母子講にあつては、未取口者のみの申合せによつて、講世話人の取立および落札の方法を中止し、その後は未取口者が一体となつて既取口者に対しその掛戻金の支払を請求できるものと解するのが相当である。