労働争議の手段として、会社のために集金した現金を、会社に納入せず、一時保管の意味で、労働組合側に属する個人名義で預金しておくいわゆる納金ストにおいて、組合側が銀行に対し納金ストの経緯を説明し、争議解決後は直ちに預金を会社に返還すること、また争議中は預金の引出しは一切これを行わないことの条件で、組合代表者名義で預金したい旨を申出た事実、組合側は会社側利益代表者に対し納金ストを実施している旨を何回となく伝えているという事実、当該預金が従来会社と取引関係のある銀行にされていた事実、会社側がいわゆる業務命令を発するや、組合側においても、納金スト中止指令を出し、該預金はそのまま全額が会社口座に返還された事実が認められるときは、右預金は専ら会社のためにする保管の趣旨の下にされたものということができ、不法領得の意思を欠くものとして業務上横領罪を構成しない。
いわゆる納金ストが不法領得の意思を欠くものとして業務上横領罪を構成しないとされた事例。
刑法253条
判旨
横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて所有者でなければできない処分をする意思をいうが、占有者による処分であっても、それが専ら所有者のために行われたと認められるときは不法領得の意思を欠く。
問題の所在(論点)
労働争議の一環として、会社に納入すべき金員を一時的に組合名義の口座で保管する行為について、業務上横領罪における「不法領得の意思」が認められるか。
規範
横領罪(刑法252条、253条)の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。もっとも、当該処分が専ら所有者自身のためになされたと認められるときは、不法領得の意思を欠くものとして同罪は成立しない。
重要事実
事件番号: 昭和27(あ)5976 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 破棄差戻
一 争議行為における職場放棄中の賃金一人あたり金二六円余、八五名分合計金二千余円を給料中から控除することに反対するために、その主張貫徹の手段として会社所有の金銭の使用を阻止すべく、会社の意に反して、集金にかかる会社所有の電気料金合計金九百余万円を会社に引き渡さないで抑留し、しかも、抑留限度等につき何等顧慮することなく、…
電力会社の労働組合が納金ストを実施し、集金した電気料金を会社に納金せず、組合分会執行委員長名義で銀行に預金した。その際、組合側は銀行に対し、争議解決後は直ちに返還すること、争議中は引き出しを行わないことを条件として提示し、会社側にもスト実施を通知していた。その後、会社側の業務命令や組合の中止指令に基づき、預金全額が会社口座に返還された。
あてはめ
本件預金は、会社と取引のある銀行になされ、争議解決後の即時返還と争議中の引き出し禁止が徹底されていた。また、会社側にも状況が通知されており、保管の安全を期することに主たる目的があったといえる。このような事情の下では、当該処分は「専ら所有者(会社)のために保管の趣旨でなされたもの」と評価でき、所有者の意思を排除して利用・処分する意思、すなわち不法領得の意思は認められない。
結論
被告人らには不法領得の意思が認められないため、業務上横領罪(またはその幇助罪)は成立しない。
実務上の射程
不法領得の意思の定義(利用処分意思)を確認した上で、その例外として「専ら所有者の利益を図る目的」がある場合の否定論を構成する際に用いる。労働争議に限らず、所有者の利益を保護するための緊急避難的な保管や、一時的な名義変更の事案において、主観的態様の検討材料として重要である。
事件番号: 昭和28(あ)506 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
引用の判例は「大正十年大審院宣告」と上告趣意書に記載されてあるだけで、刑訴規則二五三条の「上告趣意書にその判例を具体的に示さな」い場合に当り、上告理由として不適法である。