一 争議行為における職場放棄中の賃金一人あたり金二六円余、八五名分合計金二千余円を給料中から控除することに反対するために、その主張貫徹の手段として会社所有の金銭の使用を阻止すべく、会社の意に反して、集金にかかる会社所有の電気料金合計金九百余万円を会社に引き渡さないで抑留し、しかも、抑留限度等につき何等顧慮することなく、被告人名義に預金した所為(本件納金スト)は、他に特別の事情の認められない限り、全体として労働組合法第一条第二項にいう「正当な行為」にあたらない。 二 労働争議の手段として、集金した電気料金を、会社に納入しないで、一時自己の下に保管し、しかもその保管の方法が会社のため安全且つ確実なものであり、毫も自らこれを利用、処分する意思なく、争議解決まで、専ら会社のため一時保管の意味で単に形式上自己名義の預金としたに過ぎない場合には、右のごとき抑留保管の所為をもつて直ちに横領罪の成立を認むべきでない。 三 いわゆる納金ストが労働組合法第一条第二項にいう「正当な行為」にあたらないと判断しても憲法第二八条に違反するものではない。
一 いわゆる納金ストが労働組合法第一条第二項にいう「正当な行為」にあたらない事例。 二 いわゆる納金ストと横領罪の成否。 三 いわゆる納金ストが労働組合法第一条第二項にいう「正当な行為」にあたらないとする判断の合憲性(憲法第二八条)。
労働組合法1条2項,刑法252条,刑法253条,憲法28条
判旨
労働争議において、集金した代金を会社に納入せず自己名義で預金する「納金スト」は、専ら会社のため一時保管する目的で、安全・確実な方法により、自ら利用・処分する意思がない場合には不法領得の意思を欠き、業務上横領罪は成立しない。
問題の所在(論点)
労働争議において、会社に帰属すべき金員を一時的に抑留し、自己名義で預金する行為(納金スト)について、刑法253条の業務上横領罪における「不法領得の意思」が認められるか。
規範
横領罪における「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。ただし、その処分が専ら所有者自身のためになされたと認められるときは、不法領得の意思を欠き横領罪を構成しない。労働争議に伴う金銭抑留であっても、保管方法が安全かつ確実であり、自ら利用・処分する意思がなく、争議解決まで専ら会社のための一時保管として形式上自己名義としたに過ぎない場合は、不法領得の意思は認められない。
事件番号: 昭和37(あ)2354 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
下級審がその事件について上告審の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の診断を不服として上告することは許されない。
重要事実
電力会社の労働組合執行委員長である被告人は、賃金カットに反対する争議行為の一環として、集金係員に指令し、集金した電気料金約900万円を会社指定の口座に納入させず、自己名義の預金口座に振り込ませて抑留した(いわゆる納金スト)。この際、会社側への事前通告はなく、抑留の限度や期間についても顧慮されなかった。原審は、被告人名義で預金したこと自体を不法領得の意思の発現と解し、業務上横領罪の成立を認めた。
あてはめ
不法領得の意思の有無を判断するには、行為の形式的な側面だけでなく、主観的な目的や保管の態様を検討すべきである。本件において、被告人らが集金した電気料金を一時的に自己の下に保管したとしても、(1)その保管方法が会社のため安全・確実であり、(2)被告人らにおいて自らこれを利用・処分する意思が全くなく、(3)争議解決まで専ら会社のために一時保管する趣旨で、単に形式上自己名義としたに過ぎない場合には、不法領得の意思を欠く。原審は、本件預金がこれら「専ら会社のため」のものであるか否かを審究せず、預金行為のみから直ちに不法領得の意思を認めており、審理不尽または理由不備の違法がある。
結論
被告人の行為に直ちに不法領得の意思を認めた原判決には法律の解釈誤りまたは理由不備があるため、破棄し、預金の目的や態様をさらに審理させるため差し戻す。
実務上の射程
労働争議の正当性を超える行為であっても、直ちに横領罪が成立するわけではなく、不法領得の意思の有無を個別具体的に検討する必要があることを示した。答案上は、物の利用可能性の排除だけでなく、所有者としての振る舞い(利用・処分意思)が「権利者を排除して自己の利得を図る」ものであるか、あるいは「権利者の利益を図る」ものであるかの峻別に活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3005 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 棄却
労働争議の手段として、会社のために集金した現金を、会社に納入せず、一時保管の意味で、労働組合側に属する個人名義で預金しておくいわゆる納金ストにおいて、組合側が銀行に対し納金ストの経緯を説明し、争議解決後は直ちに預金を会社に返還すること、また争議中は預金の引出しは一切これを行わないことの条件で、組合代表者名義で預金したい…