下級審がその事件について上告審の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の診断を不服として上告することは許されない。
下級審がその事件について上告審の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対する上告理由の適否。
刑訴法405条,裁判所法4条
判旨
労働争議の手段として集金した金員を、会社のため安全・確実に保管し、自ら利用・処分する意思なく一時的に自己名義で預金したに過ぎない場合、不法領得の意思は認められない。また、下級審が最高裁の破棄理由における法律上の判断に従った場合、最高裁も自らの判断に拘束され、これを変更することはできない。
問題の所在(論点)
労働争議に伴い集金した金員を、会社に納入せず一時的に自己名義の口座で保管する行為について、業務上横領罪(刑法253条)の不法領得の意思が認められるか。
規範
横領罪における「不法領得の意思」とは、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。保管方法が委託者にとって安全かつ確実であり、かつ自らこれを利用・処分する意思がなく、専ら委託者のために一時保管する目的で形式上自己名義としたに過ぎない場合には、不法領得の意思は否定される。
重要事実
被告人らは労働争議の手段として電気料金を集金したが、これを会社に納入せず、被告人個人名義の銀行口座に預金した。この保管行為は、争議解決まで会社のために一時的に行うものであり、会社にとって安全かつ確実な方法であった。被告人らにおいて、当該金員を自ら利用または処分する意思は認められなかった。
事件番号: 昭和27(あ)5976 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 破棄差戻
一 争議行為における職場放棄中の賃金一人あたり金二六円余、八五名分合計金二千余円を給料中から控除することに反対するために、その主張貫徹の手段として会社所有の金銭の使用を阻止すべく、会社の意に反して、集金にかかる会社所有の電気料金合計金九百余万円を会社に引き渡さないで抑留し、しかも、抑留限度等につき何等顧慮することなく、…
あてはめ
本件において被告人らは、集金した電気料金を自己のために消費する意図はなく、会社のために安全な銀行預金という形で管理していた。これは「争議解決までの保管」という目的に限定されており、形式上の名義変更に留まる。自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思、すなわち不法領得の意思があったとは評価できない。
結論
被告人らに不法領得の意思は認められず、業務上横領罪は成立しない。
実務上の射程
不法領得の意思の欠如を主張する際の典型例(一時保管・安全管理)として活用できる。特に争議行為等の文脈で「委託者の利益のための占有継続」と評価できる事案では、本判例の判断枠組みが射程となる。また、裁判所法上の上告審の拘束力(審判の範囲)に関する手続的議論でも参照される。
事件番号: 昭和29(あ)3005 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 棄却
労働争議の手段として、会社のために集金した現金を、会社に納入せず、一時保管の意味で、労働組合側に属する個人名義で預金しておくいわゆる納金ストにおいて、組合側が銀行に対し納金ストの経緯を説明し、争議解決後は直ちに預金を会社に返還すること、また争議中は預金の引出しは一切これを行わないことの条件で、組合代表者名義で預金したい…