一、村農業委員会がその樹立した牧野買収計画を取り消したことを県農業委員会において承認する旨の被買収者に対する通知は、行政処分にあたらない。 二、買収、売渡の目的とされた三五町歩の土地のうち約九町歩は採草地として買収適地であつたが、その余の部分は林地として買収不適格地であつたにかかわらず、目的地の全部が採草地にあたるとの誤認の下に買収処分がなされ一〇数名の者に分割して売渡処分がなされた場合には、売渡を受けた者の利益を犠牲に供してもなお処分の違法を是正する必要があり、しかも買受人相互の公平を期する上から一旦売渡処分の全部を取り消す必要があるから、右事情の下で買収、売渡処分の全部を取り消すことは適法と解すべきである。 三、行政処分に対し異議、訴願、行政訴訟等が提起されず処分が確定しても、これにより処分庁の取消権は失われるものではない。
一、村農業委員会がその樹立した牧野買収計画を取り消したことを県農業委員会において承認する旨の被買収者に対する通知は行政処分か。 二、買収、売渡の目的地の一部が買収不適格地であることを理由として買収、売渡処分の全部を取り消すことが適法とされた事例。 三、行政処分に対し争訟が提起されず処分が確定した場合と処分庁の取消権。
判旨
行政処分が争訟期間の徒過等により確定した後であっても、処分を放置することによる公益上の不利益が、取消により関係人が受ける不利益よりもはるかに重大な場合には、処分庁は職権で当該処分を取り消すことができる。
問題の所在(論点)
行政処分が争訟期間の徒過により確定し不可争力が生じた場合において、処分庁が公益上の必要を理由に当該処分を職権で取り消すことができるか。
規範
行政処分が異議、訴願、行政訴訟等の提起なく確定(不可争力の発生)しても、処分庁の職権取消権が当然に失われるものではない。行政処分を放置することによる公益上の不利益が、処分の取消により関係人に及ぼす不利益に比してはるかに重大である場合には、たとえ処分が確定した後であっても、処分庁においてこれを取り消し得ると解するのが相当である。
重要事実
農地改革において、県知事(処分庁)は土地35町歩を採草地と誤認し、自作農創設特別措置法に基づき買収・売渡処分を行った。しかし、実際には約9町歩のみが採草地で他は林地であった。処分確定後、県知事はこの誤認を理由に買収および売渡処分の全部を職権で取り消した。これに対し、売渡処分を受けていた上告人らが、処分の確定による不可争力の発生および信頼保護を理由に、取消処分の無効を訴えた。
事件番号: 昭和41(行ツ)49 / 裁判年月日: 昭和47年9月22日 / 結論: その他
共有にかかる牧野につき自作農創設特別措置法による買収計画の公告および承認があつたのち、一部の共有者に対して買収令書の交付または交付に代わる公告が行なわれた事跡がなく、「買収の時期」より七、八年も経過したときは、その後において、農地法施行法二条一項五号の規定に依拠し、右一部の共有者に対しあらたに買収令書を交付してその持分…
あてはめ
本件では、35町歩のうち約9町歩のみが採草地であるにもかかわらず全部を採草地と誤認しており、処分の基礎に重大な瑕疵がある。法規に根拠のない行政処分の存続は社会の法秩序を破壊するおそれがあり、適正な農地改革の推進という公益上の不利益は極めて大きい。他方、売渡を受けた者の利益を犠牲にしても処分の違法を是正する必要があり、買受人相互の公平を期するためには全部を取り消す必要がある。したがって、公益上の必要性が私益の保護をはるかに上回るものといえる。
結論
本件買収・売渡処分の全部の職権取消は適法である。行政処分の不可争力は国民から処分の効力を争えなくするものであり、行政庁による自発的な是正までをも禁止するものではない。
実務上の射程
不可争力が生じた処分の職権取消の可否に関するリーディングケース。答案では、職権取消の法的性質(自服力)を確認した上で、私益(信頼保護)と公益(法適合性の回復)の比較衡量枠組みとして引用する。特に「放置による公益上の不利益が私益への不利益よりはるかに重大」という要件を厳格に適用すべき文脈で活用する。
事件番号: 昭和32(オ)18 / 裁判年月日: 昭和33年9月9日 / 結論: 破棄差戻
一 農地買収令書発付後約三年四箇月を経過した後に、買収目的地の十分の一に満たない部分が宅地であつたという理由で買収令書の全部を取り消すことは、買収令書の売渡を受くべき者の利益を犠牲に供してもなお買収令書の全部を取り消さねばならない特段の公益上の必要がある場合でないかぎり、違法と解すべきである。 二 行政処分取消訴訟の出…
事件番号: 昭和31(オ)762 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】登記簿上の所有者を対象とした農地買収処分は、真実の所有者と異なる場合であっても当然無効とはならず、出訴期間内に取消訴訟を提起しない限り、その効力を争うことはできない。 第1 事案の概要:上告人の所有地であった本件農地につき、登記簿上はD合資会社の所有名義となっていた。政府は登記に基づき、D社を対象…
事件番号: 昭和33(オ)91 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消事由にすぎない瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が処分を当然無効ならしめるほどの重大かつ明白なものでない限り、当該処分は当然には無効とならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収処分に以下の無効原因があると主張した。(1)県係員の虚偽指示に基づく買収計画、(2)異議却下時の農地委…
事件番号: 昭和31(オ)902 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然に無効とされるためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵があることを要し、本件買収処分については小作地でない土地を小作地と誤認した点に明白な瑕疵が認められるため無効である。 第1 事案の概要:鎌倉市農地委員会は、本来は自作地(または小作地ではない土地)であった本件農地を小作地であると認定…