判旨
賃料の一部を供託しても、別段の事由がない限り、その一部に相当する賃料債務の消滅という免脱の効力は生じない。
問題の所在(論点)
賃料の一部を供託した場合において、その供託した範囲内で債務消滅(免脱)の効力が認められるか。
規範
債務者が債務の一部についてのみ供託を行った場合、原則として、供託した部分に相当する債務についても免脱の効力を生じない。ただし、債務の一部についてのみ供託することが許容されるような「別段の事由」がある場合には、その限度で効力が認められる余地がある。
重要事実
本件家屋の賃料は、昭和25年8月に月額5000円へと適法に増額された。しかし、賃借人である上告人は、この増額後の金額に満たない額の弁済供託を行い、賃料債務の消滅を主張して争った。
あてはめ
本件において、賃料は適法に月額5000円と確定している。これに対し、上告人が行った供託は被上告人が請求する正当な賃料全額を充足するものではなく、一部の供託にすぎない。また、本件において一部供託を有効とすべき「別段の事由」は認められない。したがって、上告人が主張する弁済供託が仮になされていたとしても、賃料支払の効力を生じさせるものではないと解される。
結論
一部供託は原則として無効であり、賃料支払を命じた原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
弁済の提供および供託の有効性を論じる際の基本判例である。債務の一部提供が原則として無効であること(民法493条参照)に対応し、供託においても不可分性が維持されることを示す。実務上は、賃料増額紛争等で賃借人が「相当と認める額」を供託する場合、それが正当な賃料額に不足すれば債務不履行責任を免れないリスクを示唆する内容として重要である。
事件番号: 昭和36(オ)323 / 裁判年月日: 昭和39年4月10日 / 結論: 棄却
賃貸人が賃貸借契約解除の意思表示をなした後に、右解除の効力を争う賃借人が右解除の日以降の賃料として供託した金員を受領した場合であつても、右受領により賃貸借の解除の効果を消滅せしめ、もしくはそのときに新たな賃貸借契約を締結したものと認めるべき特別の事情でもあれば格別、却つて右供託金受領の前後を通じて賃貸借契約が解除された…