賃貸人が賃貸借契約解除の意思表示をなした後に、右解除の効力を争う賃借人が右解除の日以降の賃料として供託した金員を受領した場合であつても、右受領により賃貸借の解除の効果を消滅せしめ、もしくはそのときに新たな賃貸借契約を締結したものと認めるべき特別の事情でもあれば格別、却つて右供託金受領の前後を通じて賃貸借契約が解除されたことを主張して家屋明渡訴訟を維持している場合には右解除の効力に影響はない。
賃貸人が賃貸借契約解除後その効力を争う賃借人が賃料として供託した金員を受領した場合の効果。
民法494条,民法540条
判旨
賃貸借契約の解除後に賃借人が「賃料」として供託した金員を賃状人が受領しても、特段の事情がない限り、解除の効力を消滅させる意思があったとは認められず、損害金として受領したものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の解除後に、賃借人が「賃料」として供託した金員を賃貸人が受領した事実をもって、解除の意思表示の撤回や契約の再締結があったと認められるか。
規範
賃貸借契約の解除後に賃借人が賃料名目で供託した金員を賃貸人が受領した場合、その受領により解除の効力を消滅させ、または新たに賃貸借契約を締結したと認めるべき「特別の事情」がない限り、当該受領は解除の効果に影響を及ぼさない。この場合、当該金員は解除後の不法占有に基づく損害賠償金(損害金)として受領されたものと解される。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、賃借人(上告人)の無断転貸を理由に昭和30年5月18日に賃貸借契約を解除し、建物の明渡しを求めて提訴した。賃借人は、解除の翌日以降の分を含む賃料相当額を供託したが、賃貸人は昭和30年6月29日にこれを受領した。賃借人は、賃貸人が「賃料」として供託された金員を受領した以上、解除の意思表示を撤回したものであると主張した。
あてはめ
本件では、賃貸人は供託金受領の前後を通じて一貫して賃貸借契約の解除を主張し、建物の明渡しを求める訴訟を維持していた。このような状況下では、賃貸人が当該金員を「賃料」として受領し、契約を存続させる意思があったとは到底解し得ない。解除時までの分については有効な契約に基づく賃料として受領するのは当然であり、解除後の分については、不法占有に対する損害金の趣旨で受領したものと解するのが合理的である。したがって、解除の効力を消滅させる「特別の事情」は認められない。
結論
賃貸人が供託金を受領したとしても、直ちに解除の撤回とは認められず、本件賃貸借契約の解除の効力は維持される。
実務上の射程
契約解除後の賃料相当額の受領が「黙示の更新」や「解除の撤回」とみなされるリスクを検討する際のリーディングケースである。明渡請求訴訟を継続しているという事実は、契約存続の意思を否定する強力な認定材料となる。答案上は、受領時の客観的状況(訴訟継続の有無等)から「特別の事情」の存否を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和36(オ)853 / 裁判年月日: 昭和37年7月17日 / 結論: 棄却
賃料等の供託書を受け取つたからといつて、転貸を暗黙に承諾したものとはいえない。