判旨
弁済の事実について争いがある場合、債権者が弁済充当の主張立証責任を負うのは、債権者が他の債務の存在を主張立証した後の問題である。
問題の所在(論点)
債務者が複数の債務を負っている場合、ある弁済が特定の債務の消滅をもたらしたことを確定するための「弁済充当」に関する主張立証責任は、いかなる順序で分配されるか。
規範
債務者が複数の債務を負担している場合において、なされた弁済がどの債務に充当されたかという弁済充当の主張立証については、まず債権者側において、当該債務以外に同種の内容を有する他の債務(金額、納期等により特定されたもの)が併存している事実を主張・立証することを要する。
重要事実
債権者である上告人は、債務者である被上告人に対し、本件債務のほかに固定資産税を支払うべき債務(他の債務)を負担していると主張した。しかし、上告人は原審において、当該固定資産税の具体的な金額や納期等について何ら主張立証を尽くしていなかった。この状況下で、被上告人が行ったとされる弁済がどちらの債務に充当されるべきかが争点となった。
あてはめ
本件において上告人は、被上告人が固定資産税債務という別債務を負っていると述べるにとどまり、その具体的な金額や納期を明らかにしていない。弁済充当の議論が法的に意味を持つためには、まず前提として比較対象となる「他の適法な債務」が客観的に特定されていなければならない。上告人がこの特定のための主張立証を怠っている以上、裁判所は弁済充当の関係についてまで踏み込んで判断する必要はなく、債務消滅の成否を判断する上で弁済の事実をそのまま考慮すれば足りる。
結論
上告人が他の債務の金額や納期を具体的に主張立証していない以上、弁済充当に関する上告人の主張は採用できず、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)366 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
家屋の所有者がその占有する権原のない場合に、右所有者を代表者とする会社がその家屋の全部を借受けて占有しているときは、右会社は、敷地の所有者に対し、敷地の不法占有による損害賠償責任を負う。
民法488条以下の弁済充当が問題となる場面において、債権者が「その弁済は別の債務に充当された」と抗弁(または再抗弁)する場合、単に他の債務の存在を抽象的に述べるだけでは足りず、金額や納期等によって他の債務を具体的に特定する立証責任を負うことを示唆するものである。
事件番号: 昭和32(オ)400 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】罹災都市借地借家臨時処理法に基づく借地申出の無効原因となる事情や、同法に基づく解除権の発生等の消滅事由については、その効力を争う者が主張立証責任を負う。 第1 事案の概要:被上告会社は、本件土地上の建物が罹災した際、当該建物の賃借人であったとして、罹災都市借地借家臨時処理法2条に基づき本件土地の優…
事件番号: 昭和32(オ)189 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が主張した損害賠償請求の範囲が特定の費目に限定されている場合、それとは別の損害(賃料相当損害等)を別個の請求として明確に主張した形跡がない限り、裁判所が当該損害について判断しなくても判断遺脱の違法はなく、釈明義務も負わない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、競落した宅地および家屋を転売で…
事件番号: 昭和30(オ)772 / 裁判年月日: 昭和31年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が民法423条(当時)に基づき債権者代位権を行使する場合、第三債務者に対して直接自己への給付を求めることができる。 第1 事案の概要:債権者(上告人)が、債務者の第三債務者に対する権利を代位行使し、第三債務者に対して直接自己への支払または給付を求めた事案である(具体的な基礎事実は判決文からは…
事件番号: 昭和32(オ)270 / 裁判年月日: 昭和34年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】罹災都市借地借家臨時処理法に基づき賃貸借の成立を主張するには、対象土地が法的に保護されるべき建物の敷地と同一性を有する必要があり、僅少な部分が重複するにすぎない場合は同法による優先賃借権等の適用は受けられない。 第1 事案の概要:上告人は、夫が賃借していた疎開建物の敷地の一部が本件土地に含まれてい…