判旨
不法占有者から明渡しの猶予を請われ、その代償として「家屋使用料」名目で金員を受領したとしても、直ちに賃貸借契約の成立が認められるわけではない。信頼関係に基づく継続的法律関係を招来する趣旨が認められない限り、不法占有の状態は継続する。
問題の所在(論点)
不法占有者に対し、明渡しの猶予と引き換えに「家屋使用料」名目の金員を支払わせる合意をした場合、民法601条の賃貸借契約が成立したとみなされるか。また、それが調停条項の執行力や占有の適法性に影響を及ぼすか。
規範
賃貸借契約の成立を認めるためには、単なる対価の授受だけでなく、当事者間に信頼関係に基づく継続的な法律関係を発生させる合意(意思の合致)が必要である。不法占有者による明渡し猶予の懇請に応じ、明渡しまでの対価として金員を授受する合意は、特段の事情がない限り、不法占有を追認し賃貸借を成立させるものではない。
重要事実
被上告人(家主)と上告人との間で家屋明渡しに関する調停が成立した際、その建物には訴外Dが居住していた。Dの占有は被上告人との関係では不法なものであったが、Dが被上告人に対し、立場を考慮して明渡しを猶予してほしいと懇請した。被上告人はこれに応じ、明渡しを暫時見合わせる代わりに、家屋使用料として明渡しまで月額6,500円の支払を受けることとした。上告人側は、この事実をもって被上告人とDとの間に新たな賃貸借契約が成立したと主張した。
あてはめ
本件において、被上告人がDから金員を受領したのは、あくまでDからの懇請に基づき「明渡しの強要を暫時見合わせること」の代償(家屋使用料)として認めたものに過ぎない。この事実は、被上告人とDとの間に、賃貸借の本質である「信頼関係に基づく継続的法律関係」を新たに創設する意思があったことを示すものではない。したがって、不法占有の状態に変わりはなく、賃貸借契約の締結という事実を確認することはできない。
結論
不法占有者との間で明渡し猶予と使用料支払の合意があっても、直ちに賃貸借契約は成立しない。したがって、Dの占有は依然として不法占有であり、原審の判断に理由の齟齬はない。
実務上の射程
明渡し請求訴訟や強制執行の場面で、被告側から「賃料を受け取っているから賃貸借が成立(または追認)された」という抗弁がなされた際の再反論として有効である。一時的な猶予や損害金名目であることを明確にしている限り、賃貸借への切り替わりを否定できる判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和32(オ)1146 / 裁判年月日: 昭和36年2月24日 / 結論: 棄却
一 借家法第七条に基づく賃料増減の請求は形成的効力を有し、請求者の一方的意思表示が相手方に到達した時に同条所定の理由が存するときは、賃料は以後相当額に増減せられたものと解すべきである。 二 家賃統制額が月額一〇一六円である場合、月額一五〇〇円への家賃増額請求につき、右統制額を限度として増額の効果を認めることは、地代家賃…
事件番号: 昭和30(オ)425 / 裁判年月日: 昭和32年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の使用が一時的なものに過ぎない場合、賃貸借契約の成立は否定され、また、会社の使用人が代理人の資格を併存することは法的に可能である。 第1 事案の概要:上告人は、昭和25年7月頃から本件土地を使用していたが、被上告会社はこれを一時的使用として許諾したに過ぎなかった。上告人は本件土地の賃借を希望し…