判旨
賃貸借終了後の目的物占有継続は、特段の事情がない限り、所有権侵害についての故意・過失が事実上推定される。
問題の所在(論点)
賃貸借終了後の占有継続による不法行為責任を問うにあたり、故意・過失の主張・立証をどのように解すべきか。
規範
不法行為(民法709条)の要件たる故意又は過失は、原告において主張・立証を要するが、法律関係の性質上、債務不履行と同様の状況にある場合には、当該事実の立証により故意・過失の存することが事実上推定される。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃貸借契約の終了後も目的物を占有し続けている賃借人(上告人)に対し、所有権侵害に基づく不法行為責任(損害賠償)を追及した。上告人側は、訴状において「故意・過失」の文言を用いた主張が欠けていること、および立証がなされていないことを理由に上告した。
あてはめ
まず、主張については、必ずしも「故意」や「過失」の文字を用いなくとも、占有継続により所有権を侵害している趣旨が明らかであれば、主張を欠くものとはいえない。次に、立証については、賃貸借が終了したにもかかわらず賃借人が依然として目的物を占有している事実が立証されたときは、信義則上、占有による所有権侵害につき故意・過失の存することが推定される。本件においても、賃貸借の終了事実が認められる以上、賃借人側に故意・過失が認められる。
結論
賃貸借終了後の占有継続が立証されれば、故意・過失は事実上推定されるため、賃借人は不法行為責任を免れない。
実務上の射程
賃貸借終了後の不法行為に基づく損害賠償請求において、実務上、原告側は占有の継続という客観的事実を立証すれば足り、相手方の故意・過失まで詳細に立証する必要はないという「事実上の推定」の法理として活用される。ただし、正当な理由による占有と信じるに足りる特段の事情がある場合は、この推定が覆される余地がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和32(オ)366 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
家屋の所有者がその占有する権原のない場合に、右所有者を代表者とする会社がその家屋の全部を借受けて占有しているときは、右会社は、敷地の所有者に対し、敷地の不法占有による損害賠償責任を負う。
事件番号: 昭和30(オ)700 / 裁判年月日: 昭和32年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人の土地を占有する者は、正当な権原を主張立証しない限り、故意過失の推定を受け不法占有の責を免れない。この理は、不法占有者の相続人が占有を継続し、かつその相続人が未成年者であっても同様に適用される。 第1 事案の概要:被上告人は、上告人らの亡父Dに対し、土地の占有に基づく金銭支払を請求した。Dの死…
事件番号: 昭和34(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の買受人が、当該不動産の賃貸借契約における賃貸人の地位を承継するためには、譲受人と譲渡人との間で賃貸人たる地位の譲受契約を締結することが必要であり、その代理権の授与も認められる必要がある。 第1 事案の概要:上告人(買受人)は、補助参加人(譲渡人)から本件土地を買い受けるに際し、訴外Dを代理…
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和33(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審における訴訟代理人の権限は、特段の事情がない限り、同一の事件について上訴審における代理権をも含むものと解される。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)において被上告人を代理した弁護士に代理権がなかった旨を主張して上告した。しかし、記録上、当該弁護士に対しては第一審段階で訴訟代理委任状が…