判旨
不動産登記法5条(現174条)にいう「他人のために登記を申請する義務がある者」とは、他人のために登記申請手続をすべき具体的義務を負う者を指し、単に譲渡人の代理人として譲受人に残代金支払を督促したにすぎない者はこれに当たらない。
問題の所在(論点)
売主の代理人として買主に対し残代金支払を督促したにすぎない者が、不動産登記法5条(現行174条)に規定される「他人のために登記を申請する義務がある者」に含まれるか。すなわち、背信的悪意者と同視すべき「第三者」からの除外事由に該当するか。
規範
不動産登記法5条(現174条)所定の「他人のために登記を申請する義務がある者」とは、委任契約等に基づき、他人のために登記申請事務を処理すべき具体的・直接的な義務を負う者を指す。単に売主の代理人として買主に対し代金支払を督促する等の付随的・事務的行為を行ったにすぎない者は、当該不動産について自己の登記を具備することが信義則上制限されるべき登記欠缺を主張し得ない正当な利益を有しない第三者には当たらない。
重要事実
訴外Dから本件物件を買い受けた者が、被上告人に対し、引渡請求等を行った事案である。被上告人は、かつて本件物件の売主であった訴外Dの代理人として、上告人(買主)に対し、売買残代金の支払を督促したという経緯があった。上告人は、被上告人が不動産登記法5条(現174条)にいう「他人のために登記を申請する義務がある者」に該当し、登記の欠缺を主張できないと主張して争った。
あてはめ
被上告人が行った行為は、訴外Dの代理人として上告人に対し「本件物件等の売買残代金の支払方を督促した」という点に限定される。これは、売買契約の履行を促す代理行為にすぎず、上告人のために登記申請手続そのものを代行すべき具体的・法的義務を負うことを意味しない。したがって、被上告人が上告人に対して登記申請を行うべき立場にあったとはいえず、信義則上の登記申請義務を認める基礎を欠く。
結論
被上告人は「他人のために登記を申請する義務がある者」には当たらない。したがって、被上告人が登記を具備している以上、上告人は登記の欠缺を主張して対抗することはできない。
事件番号: 昭和32(オ)795 / 裁判年月日: 昭和34年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産買入れの委任契約に基づき受任者が自己の名で取得した不動産の所有権は、特約により委任者に当然に帰属するとしても、その登記がない限り、委任者はその所有権の取得を第三者に対抗することができない。 第1 事案の概要:上告人は、受任者Dに対し、本件土地をDの名義で連合会から買い受けた後、上告人に名義を…
実務上の射程
不動産登記法174条の「他人のために登記を申請する義務を負う者」の解釈において、単なる売主側の交渉代理人や使者は含まれないことを明確にしている。司法試験においては、二重譲渡の事案で「第三者」の範囲が問題となる際、背信的悪意者該当性のみならず、同条の「義務ある者」に該当するかを検討する場面で、義務の具体的・直接性を論ずるための指標となる。
事件番号: 昭和35(オ)232 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
代金支払が契約の数ケ月後であるとの一事によつては、登記欠缺を主張しえない背信的悪意者とはいえない。
事件番号: 昭和28(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和30年5月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の売主が目的物の所有権が買主に属することを争う場合、買主は当該売主に対し、所有権確認の訴えを提起する確認の利益を有する。 第1 事案の概要:上告人A1は、自らおよび上告人A2の法定代理人として、本件各不動産を被上告人(買主)に売り渡した。しかし、その後上告人A1は、本件不動産の所有権が被上…
事件番号: 昭和33(オ)880 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法177条の「第三者」とは、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する者を指す。したがって、不動産を不法に占有する者は、所有権の取得登記がないことを理由にその明渡請求を拒むことはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、債務者が貸金の弁済期に履行しないときは何らの意思表示を要せず貸金…
事件番号: 昭和31(オ)32 / 裁判年月日: 昭和33年6月14日 / 結論: 破棄差戻
甲乙間になされた甲所有不動産の売買が契約の時に遡つて合意解除された場合、すでに乙からこれを買い受けていたが、未だ所有権移転登記を得ていなかつた丙は、右合意解除が信義則に反する等特段の事情がないかぎり、乙に代位して、甲に対し所有権移転登記を請求することはできない