判旨
数回にわたる延滞賃料の支払催告の事実と、その間における賃料値上げの協定の事実は、経験則上矛盾するものではなく、両立し得る。また、弁論終結後の弁論再開申請は、裁判所が必ずしもこれに応じる義務を負うものではない。
問題の所在(論点)
1. 延滞賃料の催告事実と賃料値上げ協定の事実が経験則上矛盾し、事実認定を左右するか。2. 弁論終結後の弁論再開申請に対する裁判所の義務の有無。
規範
1. 賃貸借関係における信頼関係の判断において、延滞賃料の催告と賃料改定の合意は、特段の事情がない限り矛盾せず並立し得る。2. 弁論再開の可否は裁判所の裁量に属し、申請があったからといって当然に再開の義務が生じるものではない。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人)に対し、賃料の支払を数回にわたって催告していた一方で、その期間中に賃料の値上げに関する協定が数回行われていた事案。賃借人側は、催告の事実と賃料値上げ協定の事実は矛盾すると主張したほか、民法612条による無断譲渡・転貸に基づく解除の存否や、弁論終結後の弁論再開申請の拒絶を違法として争った。
あてはめ
1. 賃料の延滞に対する催告を行いつつ、将来に向けた賃料額の改定を協議・決定することは、継続的契約関係の維持・調整の一環として合理的に説明可能であり、所論経験則に照らして矛盾があるとは認められない。2. 弁論終結後に再開の申請があったとしても、原審がこれを再開すべき法的義務を負うことを示す根拠はなく、再開しなかった判断に違法はない。3. 民法612条の解除についても、原判決は同条に基づき解除を認めたわけではないため、前提を欠く主張である。
結論
本件上告は棄却される。延滞賃料の催告と賃料値上げ協定の両立を認めた原審の事実認定に違法はなく、弁論再開申請の拒絶も正当である。
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
実務上の射程
賃貸借契約の解除実務において、催告の事実と契約条件の変更交渉が併行していても、直ちに催告の効力や信頼関係の破壊の判断が否定されるわけではないことを示唆する。また、訴訟承継や弁論の再開という手続上の裁量についても、実務上の運用を追認するものである。
事件番号: 昭和37(オ)962 / 裁判年月日: 昭和38年11月22日 / 結論: 破棄差戻
約定賃料額ないし増減請求権行使によつて改訂された具体的賃料額を確定することなく、催告にかかる賃料額が相当賃料額に当ることをもつて、賃貸借解除の前提たる賃料支払の催告を有効とした判断には、審理不尽、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和32(オ)376 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】解除権者が長期間権利を行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき正当の事由が生じた場合、その後の権利行使は信義則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人は解除権を有していたが、長期間にわたってこれを行使していなかった。その後、上告人が解除権を行使したところ、相手方(被…
事件番号: 昭和31(オ)755 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利濫用の抗弁は、その前提となる権利(賃借権等)の取得が認められない場合には、判断の対象とならない。また、控訴審で主張していない事実を前提とした判断遺脱の主張は、上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地について賃借権を取得したと主張し、その上で権利濫用の抗弁を提出した。し…
事件番号: 昭和32(オ)394 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
地代家賃統制令の統制額を超える賃料を、自己に支払義務のないことを知りながら支払つた賃借人は、その返還を請求することができない。