判旨
賃料増額請求における相当賃料の算定において、諸般の事情が対象物件と著しく異ならない近傍同種の物件の賃料上昇率を算定の一資料として用いることは適法である。
問題の所在(論点)
賃料増額請求において、対象物件と規模や用途が必ずしも同一ではない近隣建物の賃料上昇率を、相当賃料算定の資料として用いることができるか。
規範
賃料増額請求権(借地借家法32条1項、旧借家法7条参照)に基づく賃料の増額において、相当な賃料額を決定するに際しては、近傍同種の建物の賃料上昇率を資料として斟酌することができる。その際、比較対象とする物件は、建物の構造や規模、敷地面積等の諸般の事情が対象物件と著しく異ならないものであることを要する。
重要事実
上告人は、昭和13年から木造瓦葺2階建(建坪延59坪2合、敷地116坪超)の家屋を月額105円で賃借していた。被上告人は賃料増額請求を行ったが、原審は、近隣にある店舗併用住宅(木造瓦葺2階建、建坪延22坪、昭和13年当時の賃料月額33円)2戸を比較対象とした。原審は、これらの比較物件が対象家屋と著しく事情が異ならないと認定した上で、その賃料上昇率を係争家屋の賃料数額決定の資料とした。
あてはめ
本件係争物件は延59坪余の独立家屋であり、比較された近隣物件は延22坪の店舗併用住宅であって、規模や用途に差異はある。しかし、当初の賃料単価(105円対33円)を比較すると係争物件が格別に高額であったわけではなく、建物の構造も同様の木造瓦葺2階建である。原審が「諸般の事情が著しく異なるものではない」と認定した以上、これらの物件の賃料上昇率を一つの指標として活用し、現在の相当賃料を算定することは、事実認定の合理的な範囲内として許容される。
結論
近傍建物の賃料上昇率を資料としてなされた原審の賃料額算定に違法はなく、賃料増額請求は認められる。
実務上の射程
賃料増額請求の事案において、スライド法(賃料指数等を用いる手法)に近い考え方で近傍物件の変動率を考慮することを認めた事例である。完全に同一の条件を備えた比較対象がない場合でも、類似性を有する物件の変動率を一つの事実上の推定資料として主張する際の根拠となる。
事件番号: 昭和40(オ)254 / 裁判年月日: 昭和40年11月30日 / 結論: 棄却
借地法第一二条による賃料増額請求があつた場合においては、裁判所は、同条所定の諸契機を考量して相当な賃料を確定すべきであつて、従来の賃料にその後における地価高騰率を乗じてのみ算出しなければならないものではない。