判旨
未成立の会社を当事者とする無効な契約が締結された場合において、過失により当該契約を締結させた者に対し、直ちに契約が有効であれば得られたはずの約定代金相当額の損害賠償を請求することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づき、無効な契約を締結させた相手方に対し、契約が有効であった場合に得られたであろう利益(履行利益)相当額の損害賠償を請求できるか。
規範
契約が未成立の会社を当事者とするために無効である場合、相手方がその無効な契約を締結したことによって被る損害の範囲は、特段の主張立証がない限り、当然に契約が有効であったならば得られたであろう利益(履行利益)を含むものではない。
重要事実
上告人は、被上告人との間で鉄屑売買契約を締結したが、買主となるべき訴外D商事株式会社は当時まだ設立されておらず、契約は無効であった。上告人は、被上告人の故意または過失により無効な契約を締結させられたとして、不法行為に基づき、契約が有効であれば得られたはずの約定代金から既受領額等を控除した残額(約105万円)の損害賠償を求めた。原審は、被上告人が会社未成立の事実を知らなかったと認定した上で、過失があったとしても直ちに約定代金相当の損害は認められないとして請求を棄却した。
あてはめ
上告人の請求は、契約が無効であったことから直ちに約定代金相当の利益を喪失したという論理に基づいている。しかし、契約自体が未成立の会社を当事者とする無効なものである以上、その契約から発生すべき代金債権は当初から存在しない。したがって、仮に被上告人に会社未成立を知らなかったことについて過失があったとしても、当然に約定代金246万円相当の利益を喪失したとは認め難い。他に具体的な損害(信頼利益等)が発生したことについての主張立証もないため、履行利益相当額の賠償請求は認められない。
結論
契約が無効である場合、直ちに約定代金相当の利益(履行利益)を損害として賠償請求することはできない。原判決の棄却判断は正当である。
実務上の射程
契約締結上の過失や不法行為責任における損害賠償の範囲について、原則として信頼利益(契約が有効であると信じたために被った損害)に限定され、履行利益までは含まれないことを示唆する。民法117条(無権代理人の責任)等の法定された責任以外で履行利益を構成するには、格別の主張立証が必要となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和35(オ)799 / 裁判年月日: 昭和38年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】注文者が民法641条に基づき請負契約を解除した場合、請負人が被る損害には、既に支出した費用のみならず、完成により得られたはずの利益(得べかりし利益)も含まれる。また、一部の資材や労務費が予定より高額であったとしても、直ちに工事全体としての利益発生が否定されるわけではない。 第1 事案の概要:請負人…