判旨
注文者が民法641条に基づき請負契約を解除した場合、請負人が被る損害には、既に支出した費用のみならず、完成により得られたはずの利益(得べかりし利益)も含まれる。また、一部の資材や労務費が予定より高額であったとしても、直ちに工事全体としての利益発生が否定されるわけではない。
問題の所在(論点)
民法641条に基づく契約解除において、請負人が請求し得る「損害」の範囲に得べかりし利益は含まれるか。また、資材費等の高騰がある場合に、一定割合の利益の発生を認めることは可能か。
規範
民法641条に基づく解除による損害賠償の範囲には、請負人が既に支出した費用のほか、工事を完成したならば得られたはずの利益が含まれる。この得べかりし利益の算定にあたっては、資材費や人夫賃の個別的な変動があったとしても、工事全体としての採算性を踏まえて合理的に判断されるべきである。
重要事実
請負人である被上告人と注文者である上告人との間で建物の請負契約が締結された。その後、上告人は転任等の事情により民法641条に基づき契約を解除した。被上告人は、契約解除により生じた損害として、現場調査費用、木材の加工による値下がり相当額、小屋掛トタン等の資材費、および請負代金額の1割に相当する得べかりし利益の賠償を求めた。これに対し上告人は、見積より高価な木材購入や高額な人夫賃の支払いがある以上、利益は発生し得ないと反論した。
あてはめ
本件において、被上告人が支出した現場調査費用、木材の墨付・加工による値下がり分、資材費等は、契約解除と相当因果関係にある損害と認められる。また、利益の算定について、一部の資材や人夫賃が当初の予定より高額であった事実があるとしても、そのことから直ちに請負工事全体として代金1割程度の利益を得られなくなるものとは断定できない。したがって、原審が認定した「一割の利益を得べかりしもの」という損害算定は正当である。
結論
注文者は、民法641条に基づき解除する際、支出済みの費用に加え、得べかりし利益についても賠償する義務を負う。本件における各費用の支出および代金の1割相当の利益についての賠償請求は認められる。
実務上の射程
民法641条(注文者による任意解除)の場面における損害賠償の範囲を確定させる際に活用する。請負人の「得べかりし利益」を認める点に意義があり、答案上では、履行利益の賠償が必要である旨を述べる際の根拠となる。実務上は、請負代金から未施工部分の経費を控除する計算手法(いわゆる差額説的アプローチ)を基礎付ける判例として引用できる。
事件番号: 昭和51(オ)900 / 裁判年月日: 昭和52年3月25日 / 結論: 棄却
甲が乙の営業を手伝つていたなど判示の事情のもとで、甲が乙の営業権を侵害したとして損害賠償義務を負う場合、右賠償額を算定するには甲乙各自の営業に対する寄与度を参酌することができる。