判旨
裁判所が特定の証拠の取調べを却下したとしても、同一の立証事項について他の証人が既に尋問されている場合には、当該証拠が唯一の証拠方法であるとはいえず、その取調べを行わないことに違法はない。
問題の所在(論点)
特定の事実を立証するための証拠申請のうち、一部の証人尋問のみを実施し、他の証人の尋問申請を却下することが、唯一の証拠を不当に棄却した違法(民事訴訟法上の証拠採否の裁量の逸脱)にあたるか。
規範
民事訴訟法における証拠調べの採否は原則として裁判所の裁量に属するが、特定の事実を証明するための「唯一の証拠」については、特段の事情がない限りこれを取り調べる義務があると解される。しかし、同一の立証事項について既に他の人証等の取調べがなされている場合には、後に申請された証拠は「唯一の証拠」には該当せず、その採用を拒絶しても裁量権の逸脱・濫用には当たらない。
重要事実
上告人が建物明渡等請求事件において、抗弁事実(詳細な事案の内容は判決文からは不明)を立証するために証人Eの尋問を申請した。しかし、原審(名古屋高等裁判所)は、当該抗弁事実について既に証人Dの尋問を実施していたため、証人Eの取調べを行わずに終局判決を言い渡した。これに対し上告人が、重要な証拠の不採用による違法を主張して上告した事案である。
あてはめ
本件において上告人が申請した証人Eの取調べ事項は、既に尋問が実施された証人Dの供述対象と同一の抗弁事実に関するものであった。記録上、証人Eが当該事実についての「唯一の証拠方法」でないことは明らかである。したがって、裁判所が証人Dの尋問をもって足りると判断し、証人Eの取調べを行わなかったとしても、立証の機会を不当に奪ったものとは評価されず、職権による証拠採否の範囲内にあるといえる。
結論
本件証人Eは唯一の証拠方法には当たらないため、これを取り調べなかった原審の判断に違法はなく、本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
実務上、証拠採否の自由(民訴法181条1項)を制限する「唯一の証拠」法理の限界を示す判例である。答案上では、証拠申請の却下の是非が問われた際、先行する証拠の有無を確認し、それが決定的な証拠足り得るか、または代替可能な複数の証拠の中の一つに過ぎないかを判断する際の基準として用いる。
事件番号: 昭和34(オ)564 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 棄却
本人尋問が唯一の証拠方法であつても、証拠の申出をした者が証拠申請書を提出せずかつその提出の催告にも応じなかつたために呼出ができなかつたような場合には、その取調をしないで審理を終結しても違法とはいえない。