当事者本人に対する臨床訊問が途中で打ち切られ、結局、反対訊問の機会がなかつたとしても、それが、右本人の病状に照らし、やむを得ない事由によるものと認められる以上、右本人訊問の結果は、これを証拠資料としても違法ではない。
反対訊問の機会がなかつた本人訊問の結果を証拠資料となし得る一事例。
民訴法294条1項,民訴法342条
判旨
病状悪化などのやむを得ない事由により当事者訊問における反対訊問ができなかった場合であっても、そのことのみで直ちに当該訊問結果を証拠資料から排除すべきではなく、裁判所は合理的な自由心証によりその証拠力を決することができる。
問題の所在(論点)
当事者訊問において、病状等のやむを得ない事情により反対訊問の機会が与えられなかった場合に、当該訊問結果を事実認定の資料とすることができるか。反対訊問を経ていない供述の証拠能力が問題となる。
規範
当事者訊問(または証人尋問)において、やむを得ない事由により反対訊問の機会が与えられなかった場合であっても、民事訴訟法上の証拠調べの不必要(旧民訴法260条、現行181条等)や自由心証主義の観点から、その訊問結果を事実認定の資料とすることは許される。その証拠力の有無および程度については、裁判所の合理的な自由心証に委ねられる。
重要事実
第一審における被告(被上告人)本人に対する臨床訊問が実施されたが、立会医師の勧告により途中で打ち切られた。このため、原告(上告人)側には反対訊問の機会が与えられなかった。裁判所は、被告の病状の経過に照らし、その後の再訊問も不相当と判断して実施しなかった。原審はこの訊問結果を事実認定の資料として用いたため、上告人は反対訊問権の侵害を理由に上告した。
あてはめ
本件では、医師の勧告による訊問打ち切りは「やむを得ない事由」に基づくものであり、裁判所が打ち切りを決定した措置および再訊問を行わなかった判断に違法はない。上告人は第一審および第二審において、反対訊問ができなかったことに対する異議申し立てや再訊問の申請を行っていない。このような状況下では、反対訊問を欠くという一事をもって証拠能力を否定すべきではなく、未完成な供述であることを含めて合理的な自由心証により証拠力を評価すべきである。
結論
反対訊問の機会がなかった場合でも、やむを得ない事由がある限り、その訊問結果を証拠資料とすることは適法である。原判決に違法はない。
実務上の射程
証拠調べの「一回的性格」や裁判所の訴訟指揮権を重視する判例である。答案上では、反対訊問を経ていない証拠の「証拠能力」が争われた際、刑事訴訟法のような厳格な伝聞法則が民事訴訟法にはないことを前提に、自由心証主義(民訴法247条)の範囲内の問題として処理する根拠となる。ただし、手続的保障の観点から、反対訊問ができなかったことによる証拠力の減殺については慎重に検討すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)112 / 裁判年月日: 昭和34年3月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が特定の証拠の取調べを却下したとしても、同一の立証事項について他の証人が既に尋問されている場合には、当該証拠が唯一の証拠方法であるとはいえず、その取調べを行わないことに違法はない。 第1 事案の概要:上告人が建物明渡等請求事件において、抗弁事実(詳細な事案の内容は判決文からは不明)を立証する…