判旨
不在者から自己の所有財産の管理や子女の養育など一切の処理を委託され実印を預けられた者は、不在者の財産管理人として、財産の保存に必要な行為として本人に代わり訴えを提起するため、直接本人名義で弁護士に訴訟委任をなす権限を有する。
問題の所在(論点)
不在者から広範な事務処理の委託と実印の預託を受けた者が、本人の名義を用いて直接弁護士に訴訟委任を行うことは、訴訟代理権の適法な発生要件を満たすか。
規範
本人の家出に際し、財産管理、子女の養育等、不在中の一切の処理を委託され、かつ実印を預託された者は、不在者の財産管理人として、管理に必要な一切の行為をなす権限を有する。そして、財産の保存に必要な行為として、本人の名義で直接弁護士に訴訟を委任し、訴えを提起することも当該権限の範囲内に含まれる。
重要事実
被上告人(本人)は、家出をするに際し、養母Dに対して自己の所有財産の管理、子女の養育など、不在中の一切の処理を委託し、さらに自己の実印を預けた。Dは、被上告人の不在中にその財産を保存する必要があると考え、被上告人の名義を用いて弁護士に本件訴訟の提起を委任した。
あてはめ
Dは、被上告人から財産管理や子女養育を含む「不在中の一切の処理」を委託されており、その活動の裏付けとして実印も預けられている。このような包括的な委託を受けた者は、不在者の財産管理人としての地位を有するといえる。本件訴訟の提起が「財産の保存に必要な行為」であるならば、管理人としての管理権限の範囲内に属する。したがって、本人に代わって本人名義で弁護士に訴えの提起を委任することは、有効な権限の行使であると解される。
結論
Dが被上告人本人の名義で行った訴訟委任は有効であり、本件訴えの提起は適法である。
実務上の射程
事件番号: 昭和31(オ)614 / 裁判年月日: 昭和33年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不在者が行方不明になる際、特定の者に自己の財産管理や子女の養育等、留守中の管理一切を委託し実印を預けた場合、受託者は不在者の氏名・押印をもって訴訟代理人を選任する等の特別の権限を授与されたものと解される。 第1 事案の概要:再審被告(被上告人)は、昭和25年7月頃に行方不明となった。その際、養母D…
任意代理人による訴訟行為の有効性、特に包括的な代理権(管理権)を与えられた者が、個別の訴訟提起について本人の顕名を用いて弁護士に委任する権限を有するかという文脈で活用できる。財産管理権の範囲に保存行為としての訴訟提起が含まれることを示す論拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)767 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記手続において、代理人が本人及び相手方の双方を代理する場合であっても、それが既に成立している法律関係に基づく登記義務の履行であるときは、民法108条本文の禁止する双方代理には当たらない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の不動産取引に関連し、特定の書面(丙第2号証)が上告人の意思に基…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和43(オ)732 / 裁判年月日: 昭和45年11月19日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙からその所有不動産を買い受けたものであるにもかかわらず、乙に対する貸金を被担保債権とする抵当権と、右貸金を弁済期に弁済しないことを停止条件とする代物弁済契約上の権利とを有するものとして、抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記を経由した場合において、丙が乙から右不動産を買い受けて所有権取得登記を経由した…