判旨
不在者が行方不明になる際、特定の者に自己の財産管理や子女の養育等、留守中の管理一切を委託し実印を預けた場合、受託者は不在者の氏名・押印をもって訴訟代理人を選任する等の特別の権限を授与されたものと解される。
問題の所在(論点)
不在者が特定の者に財産管理等を委託した場合に、受託者が不在者の氏名を用い、かつ実印を使用して訴訟代理人を選任するなどの訴訟行為を行う権限を有するか(訴訟代理権の存否)。
規範
不在者の財産管理人としての権限の有無および範囲については、授権の際の態様、預託された物品(実印等)、委託された事務の範囲等の客観的状況に基づき、訴訟代理人の選任といった裁判上の行為を含む一切の管理行為を行う特別の授権があったか否かによって判断する。
重要事実
再審被告(被上告人)は、昭和25年7月頃に行方不明となった。その際、養母Dに対し、自己の所有財産の管理や子女の養育など、留守中の管理一切を委託した。さらに、その委託に際して再審被告は自らの実印をDに預けていた。
あてはめ
本件において、再審被告は養母Dに対し、単なる日常的な事務の代行を超えて、財産管理や子女の養育を含む「一切の留守中の管理」を委託している。また、その重要な手段となる「実印」を預けている事実は、不在期間中の権利保護に必要な一切の権限を付与する意思を象徴するものである。したがって、Dは不在者の財産管理人として、管理に必要な裁判上および裁判外の一切の行為をなす特別の授権、すなわち直接再審被告の氏名と押印をもって訴訟代理人を選任し得る権限を与えられたといえる。
結論
Dによる訴訟代理人の選任行為は適法な権限に基づくものであり、これによる訴訟遂行に違法はない。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)1093 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不在者から自己の所有財産の管理や子女の養育など一切の処理を委託され実印を預けられた者は、不在者の財産管理人として、財産の保存に必要な行為として本人に代わり訴えを提起するため、直接本人名義で弁護士に訴訟委任をなす権限を有する。 第1 事案の概要:被上告人(本人)は、家出をするに際し、養母Dに対して自…
任意管理人による代理権の範囲が争点となる事案に活用できる。特に、民法上の管理人制度(25条以下)によらずに個別の授権がある場合、実印の預託や「一切の管理」という包括的な文言があれば、訴訟行為という特別の権限を要する行為も射程に含まれ得ると解する根拠となる。
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和32(オ)723 / 裁判年月日: 昭和34年11月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理における「正当な理由」の存否は、代理人の年齢や家族関係、取引相手との距離等の具体的事情を総合考慮して判断される。本件では、80歳の父が子の代理人として振る舞った際、相手方が近隣居住者であっても直ちに過失があるとはいえず、代理権があると信じるに足りる正当な理由が認められた。 第…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和24(オ)195 / 裁判年月日: 昭和26年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が長男を代理人として売買契約を締結させた事案において、代理権の存在を前提とした原審の事実認定を適法とした。 第1 事案の概要:上告人(本人)と被上告人の間で不動産の売買がなされた際、上告人の長男であるDが代理人として関与した。上告人は、本件登記は関知しない無効なものであり、Dが不身持で自宅に寄…