判旨
時効は、時効によって直接に利益を受ける者又はその承継人がこれを援用した場合、右以外の者も時効による権利の取得を主張し得る。
問題の所在(論点)
民法145条の「当事者」以外の第三者が時効による権利の取得を主張するためには、直接の利益受取人による時効の援用が必要か。また、直接の利益受取人による援用がない場合に第三者が時効を援用できるか。
規範
民法145条の「当事者」とは、時効によって直接に利益を受ける者及びその承継人を指すが、これらの者が一度時効を援用した場合には、時効による権利の取得の効果が確定的に発生するため、それ以外の第三者も時効による権利の取得を主張することができる。
重要事実
上告人は、Dが取得時効を援用したこと、あるいはEその他の者が取得時効を完成させたことを前提として、自らの権利を主張した。しかし、記録上、Dが取得時効を援用した事実は認められず、またEらについても時効完成の主張がなされた形跡はなかった。原審はこれらの事実を認めず、上告人の請求を退けたため、上告人が最高裁に上告したものである。
あてはめ
本件において、時効によって直接利益を受けるべきDが時効を援用した事実は証拠上確認できない。また、Eその他の者についても、時効完成の主張自体がなされていない。したがって、直接の利益受取人又はその承継人による援用の事実がない以上、上告人が時効による権利取得を主張する前提を欠いているといえる。上告人の主張は、原審が認定していない新事実に依拠するものであり、失当である。
結論
直接の利益受取人等による時効援用の事実が認められない本件においては、上告人は時効による権利取得を主張できず、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)580 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被相続人から生前贈与を受けた者と、相続人から重ねて贈与を受けた者との関係は、対抗関係(民法177条)に立ち、相続人は無権利者とはならない。 第1 事案の概要:被相続人Dは、生前に本件土地を上告人(第一譲受人)に贈与した。その後、Dが死亡し、Eが家督相続人となった。Eは本件土地を被上告人(第二譲受人…
本判決は、時効援用権者の範囲に関する大審院判例を維持しつつ、第三者が時効の効果を享受するためには「直接の利益受取人による援用」が先行して必要であることを示唆している。答案上は、時効の援用が相対的効力にとどまるのか、一度援用があれば絶対的なものとして第三者も援用できるのかという文脈で、大審院昭和10年判決と併せて言及すべき判例である。
事件番号: 昭和31(オ)32 / 裁判年月日: 昭和33年6月14日 / 結論: 破棄差戻
甲乙間になされた甲所有不動産の売買が契約の時に遡つて合意解除された場合、すでに乙からこれを買い受けていたが、未だ所有権移転登記を得ていなかつた丙は、右合意解除が信義則に反する等特段の事情がないかぎり、乙に代位して、甲に対し所有権移転登記を請求することはできない
事件番号: 昭和33(オ)547 / 裁判年月日: 昭和34年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を時効取得した占有者は、時効完成後に当該不動産を譲り受け登記を了した第三者に対し、登記がなければ時効による権利取得を対抗できない。また、当該第三者が時効取得の事実について悪意であっても、背信的悪意者と評価される特段の事情がない限り、同様である。 第1 事案の概要:1.上告人ら51名は、本件山…
事件番号: 昭和30(オ)55 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産が登記簿上他人名義であり、公租公課も他人が納付している場合であっても、特段の事情があるときには、当該不動産を占有する者に所有の意思(自主占有)を認めることができる。 第1 事案の概要:本件不動産は登記簿上他人名義となっており、公租公課も名義人たる他人が納付していた。しかし、占有者側の先代であ…
事件番号: 昭和37(オ)804 / 裁判年月日: 昭和38年11月15日 / 結論: 棄却
証拠を総合して事実を認定するに際し、証人の供述中に認定事実に反する趣旨の部分が存在していても、その部分を証拠として採用しなかつたことを判文上明示しなければならないものではない。