判旨
架空の会社名義で行われた預金取引において、当該取引は実体上の行為者に帰属し、名称が同一であっても実体の異なる別会社にはその権利義務は帰属しない。
問題の所在(論点)
架空の会社名義で行われた預金取引の帰属につき、名称が同一である実在の別会社にその権利義務が帰属するか、あるいは実体上の行為者に帰属するかが問題となる。
規範
預金契約の当事者は、名義の如何にかかわらず、契約締結の意思を有し、かつ現実に取引を行った実体上の行為者(自然人または法人)に帰属する。名称が既存の法人と同一または類似であっても、取引が架空の主体を想定してなされた場合には、当該既存法人に権利義務は帰属しない。
重要事実
EおよびFは、横浜に実在するD産業株式会社とは無関係に、青山に所在すると称する架空の「D産業株式会社」の名義を用いて銀行と預金取引を行った。横浜のD産業株式会社は、自らが当該預金の権利者であると主張したが、取引に用いられた住所や代表者の肩書きは実在の同社とは異なっていた。
あてはめ
本件預金取引は、横浜のD産業株式会社の名義でなされたものではなく、これとは別個の存在しない「青山のD産業株式会社」という名義で行われたものである。したがって、商法上の表見代表取締役(旧商法262条)等の規定を適用する余地もなく、実体上の取引はEおよびF両名によるものと評価される。横浜のD産業株式会社は本件取引に実質的に関与しておらず、権利義務を取得すべき法的根拠がない。
結論
本件預金は実体上の行為者であるEおよびFの取引であり、横浜のD産業株式会社は当該預金について何ら権利義務を取得しない。
実務上の射程
他人名義や架空名義を用いた預金契約の当事者確定に関する準則を示す。実務上は、名義人だけでなく「誰が原資を拠出し、誰が通帳等を管理していたか」という実体判断が重視されるが、本判決は「実在する他社とたまたま名称が一致した」だけでは権利帰属が認められないことを明確にしている。
事件番号: 昭和24(オ)260 / 裁判年月日: 昭和29年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人のために金銭を信託されて自己名義で預け入れた預金債権は、預金名義人個人の財産には属しない。したがって、当該名義人に対する債権に基づき、当該預金債権やその供託金還付請求権に対してなされた転付命令は、実体法上の権利が名義人に帰属しないため無効である。 第1 事案の概要:Dは、Eから詐欺被害者等を受…