判旨
不法行為に基づく損害賠償請求において、警告書等の通告における登録番号の誤記は、相手方が製造販売を中止したこととの間に相当因果関係があるとはいえない。
問題の所在(論点)
権利者が警告書において登録番号を誤記したまま権利侵害を主張した場合、当該誤記と被警告者が営業を中止したことによる損害との間に、民法709条の相当因果関係が認められるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が認められるためには、加害行為と損害との間に相当因果関係が必要である。警告等の通告が相手方の事業活動に影響を与えた場合であっても、その影響力の核心が権利侵害の事実自体にあるときは、通告における付随的な表示の誤りは、事業中止という結果との間に因果関係を形成しない。
重要事実
被上告人(権利者)は、上告会社(被疑侵害者)に対し、上告会社の製作・販売する風呂釜が自らの実用新案権を侵害している旨の通告書(警告書)を送付した。その際、通告書に記載された実用新案登録番号に誤記があった。上告会社は、この通告を受けて風呂釜の製作・販売を中止し、休業した。その後、上告会社は、登録番号の誤記を理由に、不適切な通告によって損害を被ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。なお、上告会社の製品が、被上告人の保有する実際の実用新案権を侵害していた事実は原審で認定されていた。
あてはめ
上告会社が製作・販売を中止した直接の動機は、被上告人の実在する実用新案権を侵害しているという通告内容そのものにある。通告における登録番号の適否は、上告会社が中止・休業の判断を下すに際して決定的な影響力を持つ要素ではなく、付随的な事項にすぎない。したがって、通告における登録番号の誤記が、上告会社をして製作・販売を中止させた「原動力(影響力)」になったとは認められないため、当該誤記と上告会社に生じた損害との間に相当因果関係を認めることはできない。
結論
登録番号の誤記と営業中止による損害との間には相当因果関係がないため、不法行為は成立せず、請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
知財侵害警告に関する不法行為の成否において、形式的な不備(番号誤記等)があっても実質的な権利侵害の事実が存在する場合には、相当因果関係が否定されることを示した事例である。答案上は、不法行為の相当因果関係を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)614 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特許権侵害の不法行為責任において、行為者が弁理士の鑑定に従って侵害行為に及んだとしても、その一事をもって直ちに過失または責任が阻却されるものではない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は、本件特許権を侵害する行為に及んだ。上告人は、当該行為が適法であるとの弁理士による鑑定結果を得ており、これに従っ…