判旨
取締役が旧商号を記載した手形を振り出した行為につき、任務懈怠(悪意・重過失)が認められる場合であっても、第三者の損害との間に相当因果関係が認められない限り、会社法429条1項(旧商法266条の3)に基づく賠償責任は負わない。
問題の所在(論点)
取締役が商号変更登記を怠り、手形に旧商号を記載して振り出した場合において、当該記載行為と手形割引により第三者が被った損害との間に相当因果関係が認められるか。
規範
役員等の第三者に対する賠償責任(会社法429条1項)が認められるためには、役員等の職務執行における悪意又は重大な過失(任務懈怠)に加え、その職務執行行為と第三者に生じた損害との間に相当因果関係が存在することを要する。特に手形の割引による損害については、振出人名義の記載が旧商号であったこと等が、割引の判断(与信判断)に直接影響を及ぼしたといえる関係が必要である。
重要事実
被告(被上告人)が取締役を務める会社は、商号を「F林業株式会社」に変更したが、2週間以内に変更登記を行わず、手形の振出人名義にも旧商号である「E木材株式会社」を表示したまま手形を発行した。原告(上告人)は本件手形を割り引いたが、後に損害を被ったため、被告に対し旧商法266条の3(現会社法429条1項)に基づき損害賠償を請求した。
あてはめ
本件において、上告人が本件手形を割り引いたのは「振出人がE木材株式会社と記載されていたからである」という事実を立証する責任は上告人にある。しかし、原審の認定によれば、振出人名義の記載と割引の実施との間に因果関係を認めさせるに足りる証拠はない。したがって、たとえ被上告人が商号変更登記を怠り旧商号を記載したことに過失があったとしても、その過失によって本件損害が生じたものとは認められない。
結論
被告の行為と原告の損害との間に因果関係が認められないため、被告は会社法429条1項(旧商法266条の3)に基づく賠償責任を負わない。
実務上の射程
会社法429条1項の責任追及において、任務懈怠の有無だけでなく因果関係の立証が厳格に求められることを示す。答案上は、登記懈怠等の形式的な義務違反があっても、それが第三者の取引判断(与信等)に影響を与えていない場合には、因果関係を否定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1219 / 裁判年月日: 昭和45年10月22日 / 結論: 破棄差戻
甲が代表取締役をしている有限会社乙の会社名ゴム印および代表者印等の保管につき善管義務を尽さず放置しておいたため、右会社の取締役兼丁会社の代表取締役である丙が、それらを無断で使用して約束手形を作成し、丁会社の戊に対する自動車買受代金債務の分割金の支払のため右約束手形を振出交付した場合において、戊が右約束手形の支払を受けら…