判旨
無記名定期預金の預け入れにおいて、第三者が真の拠出者の代理人として振る舞い、証書等を拠出者が保管している場合、特段の事情がない限り預金債権者は当該拠出者である。また、銀行が預金債権者でない者との間で相殺の合意をしても、証書および届出印の提出がない限り、真の債権者に対し免責されない。
問題の所在(論点)
1. 他人の名義や無記名による預け入れがなされた場合における預金債権者の確定基準。2. 預金債権者ではない者との間での相殺合意と、預金払戻債務の免責の成否。
規範
預金契約の当事者確定にあたっては、拠出金の性質、預け入れの経緯、証書および印章の保管状況等の客観的事実を総合考慮して判断すべきである。また、預金証書と引換えに払い戻す旨の特約がある場合、銀行が債権者以外の者との間で相殺(払戻し)を行い免責を受けるためには、原則として当該特約に基づき証書および届出印の提出がなされることを要する。
重要事実
上告人(真の拠出者)は、訴外Dに対し、自己の金員50万円と印章を交付して無記名定期預金の預け入れを委任した。Dは銀行にて自ら預金者と名乗らずに預け入れを行い、受領した預金証書と届出印を上告人に渡した。上告人はこれらを保管し、後に印鑑の改印届も受理されていた。しかし、銀行はDとの間で、Dが負う債務と当該預金債権を相殺する合意をしたが、その際、預金証書および届出印の提出はなされていなかった。
あてはめ
1. 本件では、上告人が自己の金員を拠出し、Dに預け入れを委任している。Dは預け入れ後直ちに証書等を上告人に返還しており、上告人がこれらを継続的に占有・管理している。また、上告人は改印届まで行っている。したがって、Dが金員を横領して自己の預金とした等の「特段の事情」がない限り、債権者は上告人であると解される。2. 銀行とDとの相殺合意時、銀行は預金証書および届出印の提出を受けていない。特約により証書等との引換えが払戻しの条件となっている以上、真の債権者でないDとの合意のみでは、銀行は上告人に対する預金払戻債務を免れることはできない。
結論
本件預金債権者は上告人であり、銀行がDとの間で行った相殺は、証書等の提示がない限り上告人に対抗できず、銀行の払戻債務は消滅しない。
実務上の射程
預金者の確定に関するリーディングケースの一つ。無記名預金であっても、資金拠出関係と証書の所持状況を重視して実質的に判断する。また、銀行実務における免責特約(478条の類型)の適用場面において、証書等の確認という手続的要件の遵守が免責の成否を分けることを示唆しており、答案上は債権の準占有者に対する弁済の有効性を検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)485 / 裁判年月日: 昭和32年12月19日 / 結論: 棄却
一 いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく氏名債権に属する。 二 甲が乙に金員を交付して甲のため無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合、乙において右金員を横領し自己の預金としたものでない以上、その預入れにあたり、乙が、届出印鑑として乙の氏を刻した印鑑を使用し、相手方の…
事件番号: 昭和52(オ)343 / 裁判年月日: 昭和52年8月9日 / 結論: 棄却
記名式定期預金が預入行為者名義のものであり、その名義の使用が出捐者の意思に基づく場合であつても、出捐者が預入行為者に対し、自己の預金とするために金員を出捐して預入行為者の名義による記名式定期預金の預入手続を一任し、預入行為者が出捐者の使者又は代理人として預金契約を締結したものであり、かつ、預金証書及び届出印章は出捐者が…