判旨
滞納処分としての随意契約による売却は、見積価格が固定資産税基準価格と差異があることや、公売手続の書類に一部真実でない記載がある等の事情があっても、直ちに公序良俗に反し無効とはならない。公売において買受申込人がなかった等の経緯がある場合には、当該随意契約による処分は適法であり、権利の濫用にも当たらない。
問題の所在(論点)
滞納処分としての随意契約による売却において、見積価格の不備や手続上の瑕疵が、民法90条(公序良俗)違反による無効や、民法1条3項(権利の濫用)を構成するか。
規範
滞納処分における随意契約による売却処分の効力について、見積価格の設定や公売手続の実施状況に瑕疵が主張される場合であっても、公序良俗(民法90条)に反して無効となるのは、社会通念上著しく不相当と認められる特段の事情がある場合に限られる。また、処分の適法性を欠く場合であっても、それが直ちに権利の濫用(民法1条3項)を構成するものではない。
重要事実
上告人の滞納に基づき差押物件(家屋)が公売に付されたが、買受申込人がなかった。その後、行政庁は随意契約によって当該物件を売却処分とした。上告人は、①随意契約の基礎となる見積価格が固定資産税基準価格と乖離していること、②公売手続にかかる証拠書類に真実に反する記載があること、③公売見積価格の作成時期が不適切であること等を理由に、当該処分は公序良俗に反し無効であり、権利の濫用であると主張した。なお、上告人は当該家屋に居住していたが、賃借権等の正当な占有権原は認定されなかった。
あてはめ
まず、見積価格が固定資産税基準価格と差異があるとしても、その一事をもって公序良俗違反とはいえない。また、公売手続において買受申込人がなかった事実は認められ、証拠書類の一部に真実と符合しない点があるとしても、あるいは公売見積価格の作成時期が遅れたとしても、公売手続を経た上での随意契約という一連の過程に照らせば、社会的に許容される範囲内にある。さらに、上告人が主張する居住関係についても、適法な賃借権等の権利が認められない以上、本件売却処分を権利の濫用と評価すべき事実関係は認められない。
結論
本件随意契約による売却処分は公序良俗に反せず、有効である。また、権利の濫用にも当たらない。
実務上の射程
行政処分(滞納処分)の私法上の効力が争われる場面で活用できる。手続に一定の瑕疵や価格の乖離があっても、公売不調という実態がある場合には随意契約の有効性が維持されやすいことを示す。答案上は、公序良俗違反や権利濫用の主張を退ける際の「考慮要素の限定」の論理として引用可能である。
事件番号: 昭和35(オ)1063 / 裁判年月日: 昭和36年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済契約が公序良俗に反するか、または債権者による権利の行使が信義誠実の原則に反し権利濫用に該当するかは、契約締結の経緯や諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件においてはそれらに該当しない。 第1 事案の概要:上告人らと被上告人との間で代物弁済契約が締結された。上告人らは、当該契…