証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が損失を被ったもので、顧客が右約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して右約束をさせたわけではないなど判示の事実関係の下においては、顧客の不法性に比し、証券会社の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、証券会社は、顧客に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。
証券会社の従業員が顧客に利回り保証の約束をして株式等の取引を勧誘し一連の取引をさせた場合に右取引による顧客の損失について証券会社が不法行為責任を免れないとされた事例
民法708条,民法709条,民法715条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条
判旨
利回り保証という公序良俗に反する契約に関連して損害が生じた場合であっても、顧客に比して証券会社の不法の程度が極めて強いときは、民法708条の趣旨に反せず、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる。
問題の所在(論点)
証券会社が法令違反の利回り保証を約束して顧客を勧誘し、損害を与えた場合において、当該約束が公序良俗に反する不法なものであったとしても、民法708条の適用を制限し、不法行為(民法709条、715条)に基づく損害賠償請求を認めることができるか。
規範
不法原因給付(民法708条)の規定がある場合でも、給付者側の不法性に比して受領者側の不法の程度が極めて強いと評価できる場合には、同条の趣旨(法の正義)に照らし、給付者は損害賠償請求を免れない。この場合、不法原因給付の法理は損害賠償請求を排斥する理由にはならない。
重要事実
証券会社の従業員Gは、過去の損失を理由に取引を渋る顧客に対し、法令で禁止された利回り保証が可能であるかのように装い、年15%の利回り保証を約束して勧誘した。顧客はこれを信じて取引を開始したが、約8000万円の損失を被った。顧客は自ら利回り保証を求めたわけではなく、勧誘に乗ったに過ぎなかった。また、証券会社の支店長らもこの約束を確認・修正するなどして取引を継続させていた。
あてはめ
顧客は1億円超の取引経験があるとはいえ、自ら利回り保証を強要したのではなく、Gの虚偽の勧誘に誘発されたに過ぎない。これに対し、証券会社側は、法令遵守が求められる立場にありながら、従業員Gが利回り保証という違法な手段を積極的に用いて勧誘し、さらには上席者である営業部長や議長もその約束を追認・加担して取引を継続させていた。このような事実関係下では、顧客の不法性に比して証券会社側の不法の程度が極めて強いと評価できる。
結論
証券会社は不法行為に基づく損害賠償責任を免れず、顧客の請求は認められる。ただし、顧客の経験等を鑑み3割の過失相殺がなされる。
実務上の射程
利回り保証や損失補填等の違法な約束が介在する取引において、民法708条(不法原因給付)を理由とする拒絶に対する再反論として、当事者間の「不法の比較」を行う枠組みとして重要である。実務上は、どちらが主導的に違法状態を作り出したかという点を重視して検討すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法708条は、不法原因給付の返還請求に法律上の保護を与えないだけであり、受領者が任意に返還することや、当事者間で返還を合意する契約を締結することは同条および公序良俗に反せず有効である。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対し、売買契約に基づき代金を前渡したが、当該契約は統制法規に違反し無効であ…