証券会社に所属する外務員が,顧客に対し,実在しない同社の取引口座の存在をかたって同口座の利用を勧誘し,金銭の預託を受けるなどしたが,その入出金の経過が同社から同顧客に交付された取引報告書等には全く記載されておらず,同外務員がした説明からは同口座において同顧客のための証券取引が行われるものと解することが困難であるなど判示の事情の下においては,同外務員がした上記金銭の受託等の行為は,証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)64条1項にいう「その有価証券の売買その他の取引」に当たらない。
証券会社に所属する外務員が顧客との間でした金銭の受託等が証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)64条1項にいう「その有価証券の売買その他の取引」に当たらないとされた事例
証券取引法(平成10年法律第107号による改正前のもの)64条1項
判旨
証券会社の外務員が顧客に対し、架空の口座(「客方」)への入金を勧誘して金銭を預託させた行為は、証券取引としての実体を有さないため、改正前証券取引法64条1項の「有価証券の売買その他の取引」には当たらず、証券会社に預託契約に基づく返還義務は生じない。
問題の所在(論点)
外務員が顧客から架空の口座名目で金銭を預託させた行為が、旧証券取引法64条1項にいう「その有価証券の売買その他の取引」に該当し、証券会社に対して預託金返還請求(契約責任)をなしうるか。
規範
外務員が証券会社に代わって行う行為(旧証券取引法64条1項)に該当し、会社に契約上の法的効力が帰属するためには、その行為が「有価証券の売買その他の取引」としての実体を有するものでなければならない。単に投資資金の預託という形式をとっていても、具体的な取引内容が不明確であり、一定の利払(複利等)が約束されるにとどまるなど、証券会社が行うことのできる取引の実体を欠く架空の取引については、同項の適用はない。
重要事実
証券会社の上告人に所属する外務員Dは、自らの流用金の補填等のため、存在しない架空の口座「客方」での運用を被上告人(顧客)に持ちかけた。Dは「客方」が通常より有利な利率(複利)で運用される特別な枠であると説明し、被上告人はこれに応じて合計約3110万円を交付した。正規の取引では計算書等の書類が送付されていたが、「客方」に関してはDが個人の印鑑を押したノートに記録するのみで、会社発行の書類には一切記載がなかった。また、運用商品や損益帰属に関する具体的な説明もなかった。
あてはめ
Dが説明した「客方」口座は、証券会社に実在せず、正規の取引報告書等の書類にも一切記載がない。取引内容を確定するための資料や説明もなく、単に「年7.5%程度の複利」という金利のみが強調されており、有価証券の売買による損益が顧客に帰属する実体も認められない。したがって、本件取引は証券会社が行いうる取引としての実体を有しない架空のものであり、外務員の法定代理権の範囲内である「有価証券の売買その他の取引」には該当しない。なお、預託金の一部で実際に株式が買付られていたとしても、それは別途行われた個別の取引にすぎず、結論を左右しない。
結論
本件預託行為は「有価証券の売買その他の取引」に当たらないため、被上告人の上告人に対する預託金返還請求(主位的請求)は認められない。
実務上の射程
外務員の行為について証券会社の直接の契約責任を追及する場合、当該行為が「証券取引としての実体」を備えている必要があることを示した。実体がない場合は、契約責任は否定され、使用者責任(民法715条)による損害賠償請求の可否(予備的請求)が主戦場となる。司法試験では、契約の成否と使用者責任の成否を切り分けて論じる際のメルクマールとして活用できる。
事件番号: 昭和45(オ)685 / 裁判年月日: 昭和47年5月19日 / 結論: 破棄差戻
甲乙問の土地売買契約の解除と土地交換契約の締結に伴い、甲が乙に対して負担した清算金債務を弁済するため、自己が金融機関である丙との間で締結していた定期貯金契約を合意解約し、その払戻金を乙に支払うことを丙に対し委任した場合において、右売買契約の解除および交換契約が甲の土地評価の誤認に起因し法律行為の要素の錯誤により無効であ…
事件番号: 平成8(オ)390 / 裁判年月日: 平成9年4月24日 / 結論: 棄却
証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が…