顧客が、自己の氏名を秘匿し他人名義を使用して商品取引業者に商品先物取引の委託をした場合において、右委託が大部分外務員を通じてのみ行われた場合であつても、当該外務員が右他人名義を利用して手張り行為を行い、顧客も警戒して委託証拠金を妻名義にし、かつ、清算時における損金が同証拠金額の範囲内にとどまるよう制限したなど原判示の事実関係のもとでは、右取引委託につき外務員が顧客の代理人として行為したものとは認められない。
顧客が外務員を通じて商品取引業者に商品先物取引の委託をした場合において外務員に顧客の代理権がないとされた事例
商品取引所法94条,民法99条
判旨
商品取引業者の外務員は、原則として業者を代理する補助者であり、顧客との間に特別の個人的信頼関係が認められるなどの特段の事情がない限り、顧客の代理人とは認められない。また、外務員が顧客の本人性を認識している以上、業者もそれを知っていたと解すべきであり、多額の取引において代理権の有無を確認しなかった業者には、表見代理の成立を認めるに足りる「正当な理由」がない。
問題の所在(論点)
1. 外務員Dが顧客である上告人の「代理人」として取引を行ったと認められるか(民法99条)。 2. 仮にDが権限外の行為をした場合、業者においてDに代理権があると信ずべき「正当な理由」があるか(民法110条)。
規範
1. 商品取引業者の外務員は、顧客との間に一般的取引関係を超える特別の個人的信頼関係が存在し、顧客が外務員に対し業者の使用人たる地位を去って自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたと認められる「特別の事情」がない限り、原則として業者の代理人(補助者)であり、顧客の代理人ではない。 2. 外務員が顧客の本人性を知っている場合、その知識は業者に帰属すると解される。多額の取引において、業者が本人の代理権の有無・範囲を確認する措置を容易に講じ得たにもかかわらずこれを怠った場合、民法110条の「正当な理由」は認められない。
重要事実
上告人(顧客)は、被上告人(業者)の外務員Dの勧誘を受け、学校経営者という立場から本人名義を隠すため、Dの知人Eの名義で商品先物取引を開始した。Dは当初上告人に報告していたが、次第に報告を怠り、自身の「手張り」行為を隠蔽するなどの不実な行動をとった。上告人はDに500万円の証拠金を交付し損金制限を付けたが、Dは制限を超える大量の取引を行った。原審は、上告人がDを全面的に信頼して取引を委ねていたとして、Dを上告人の代理人と認定し、かつ制限超過分についても民法110条の表見代理の成立を認めた。
あてはめ
1. 顧客が業者営業所に出向かず外務員を通じてのみ取引し、他人名義を用いた事実のみでは「特別の事情」には当たらない。本件では、Dが手張り行為の隠蔽や不実な預り証の作成を行っており、上告人も警戒心を持っていたことが窺えるため、Dが業者の使用人たる地位を去り、上告人の代理人として行動したとは認められない。 2. Dが上告人を真実の委託者と知っていた以上、業者もそれを知っていたとみなすべきである。本件取引は回数・数量が異常に大量であり、業者は容易に上告人に代理権の有無を確認できたはずである。これを確認せず漫然とDを信じた業者には過失があり、「正当な理由」があるとはいえない。
結論
外務員Dを上告人の代理人と認定することはできず、また表見代理の成立を認めて上告人に取引の効果が及ぶとした原審の判断は、民法99条および110条の解釈を誤った違法がある。
実務上の射程
外務員が顧客と癒着して独断で取引を進めた事案において、外務員の基本的地位(業者の補助者)を重視し、顧客の代理人認定を厳格に制限する。答案上は、顧客から業者への責任追及の場面だけでなく、本件のように業者から顧客への清算金請求に対し、顧客が「外務員の勝手な行動だ」と抗弁する際の規範として機能する。
事件番号: 昭和44(オ)1156 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
民訴法二六二条に基づく調査の嘱託によつて得られた回答書等の調査の結果を証拠とするには、裁判所がこれを口頭弁論において提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り、当事者の援用を要しない。