裁判官忌避申立却下の裁判は、当該裁判官が審理を継続している限りにおいては、これを取り消す実益があるけれども、審理を終結し、判決宣告を終つた後においては、右実益が失われるものと解するのが相当である。
抗告申立の利益の有無。―裁判官忌避申立却下の裁判に対する準抗告棄却決定に対する抗告―
刑訴法21条,刑訴法22条,刑訴法24条,刑訴法429条,刑訴法434条,刑訴法426条1項
判旨
裁判官忌避申立を却下する裁判に対し、当該裁判官が審理を終結し判決を宣告した後は、却下決定を取り消す実益が失われるため、抗告は不適法となる。
問題の所在(論点)
裁判官忌避申立を却下する裁判がなされた後、本案の判決が宣告された場合において、当該却下裁判の取消しを求める申立ての利益(訴えの利益)が認められるか。
規範
裁判官忌避申立却下の裁判に対する不服申立てについては、当該裁判官が審理を継続している限りにおいては、これを取り消して公正な裁判を保障する実益がある。しかし、審理を終結して判決の宣告に至った後においては、当該裁判手続上の不服申立ての利益(実益)は失われるものと解すべきである。
重要事実
被告人の弁護人は、公職選挙法違反被告事件の担当裁判官について忌避の申立てを行ったが、当該裁判官は刑事訴訟法24条に基づき自ら却下決定を行った。その後、当該裁判官は審理を続行し、被告人に対し判決を宣告した。弁護人は、この却下決定を不服として抗告(特別抗告)を申し立てた。
事件番号: 昭和36(し)44 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
裁判官忌避の申立を却下した裁判の取消請求は、原裁判を取り消しても実益がないようになつたときは、これを許すべきものでないと解すべく、本件取消請求は既にその申立の利益を失つたものと認められるから、本件特別抗告は、右請求棄却決定の当否について裁判をする実益がなく、結局その理由がないことに帰する。
あてはめ
本件では、忌避申立がなされた当日に却下決定が下され、それから約3週間後の昭和39年8月18日に本案判決が宣告されている。本件抗告がなされた時点では既に本案判決の宣告が終わっており、忌避の対象となった裁判官による審理は終了している。したがって、原裁判(却下決定)を取り消したとしても、審理からの排除という忌避制度の目的を達する実益がない状態に至っているといえる。
結論
本件抗告は申立ての利益を欠き、不適法である(本件では棄却)。
実務上の射程
裁判手続中の派生的な申立て(忌避等)については、本案判決の宣告によりその手続的実益が消滅することを明示したものである。なお、忌避事由があるにもかかわらず裁判に関与した点については、本案判決に対する上訴(控訴・上告)において「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」や「裁判の構成の違法」として争うべきこととなる。
事件番号: 平成9(し)171 / 裁判年月日: 平成9年10月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官が担当事件の判決を宣告した後においては、当該裁判官に対する忌避申立てを却下した裁判を取り消す実益が失われるため、これに対する準抗告等の不服申立ては不適法となる。 第1 事案の概要:申立人は、自身に対する覚せい剤取締法違反被告事件を担当する前橋地方裁判所の裁判官Aに対し、忌避の申立てを行った。…
事件番号: 昭和59(し)29 / 裁判年月日: 昭和59年3月29日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の言渡取消請求事件につき忌避された裁判官が忌避の申立を簡易却下した場合において、同裁判官が、刑の執行猶予の言渡取消決定をし、これに対する即時抗告につき意見書等を抗告裁判所に送付したときは、右簡易却下の裁判に対する不服申立の利益は失われる。
事件番号: 昭和47(ク)216 / 裁判年月日: 昭和47年9月7日 / 結論: 棄却
忌避を申し立てられた裁判官が退官したことを理由とし、忌避申立を利益がないとして却下した決定は、申立の実質的理由につき判断を示さなかつたからといつて、憲法三二条に違反するものではない。
事件番号: 昭和60(し)69 / 裁判年月日: 昭和60年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官忌避申立てを却下した裁判に対する不服申立ては、当該裁判官が審理を継続している限りにおいて取り消す実益があり、既に当該裁判官の審理が終了している場合には、取消しの利益が失われる。 第1 事案の概要:抗告人は、裁判官に対する忌避申立てを行ったが、これが却下された。抗告人はこの却下裁判を不服として…