忌避を申し立てられた裁判官が退官したことを理由とし、忌避申立を利益がないとして却下した決定は、申立の実質的理由につき判断を示さなかつたからといつて、憲法三二条に違反するものではない。
忌避申立の利益がないとして申立を却下した決定と憲法三二条
憲法32条,民訴法37条
判旨
憲法32条は、申立の利益を欠く場合にまで実質的理由につき裁判を受ける権利を保障するものではない。したがって、不適法な申立てに対し、裁判所が実質的判断を示さず却下することは憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
申立の利益を欠くことを理由として、裁判所が申立ての実効的な理由(実体)について判断を示さずに門前払い(却下)をすることが、憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」を侵害するか。
規範
憲法32条が保障する「裁判を受ける権利」とは、適法な申立てについて適正な手続により裁判を求める権利である。申立の利益が認められない不適法な申立てについてまで、申立ての実質的理由(実体上の当否)につき裁判所が判断を示すことを保障したものではない。
重要事実
抗告人は、裁判官に対する忌避申立てを行った。第一審及び原審は、当該忌避申立てについて「申立の利益がない」と判断し、実質的な忌避理由の存否について判断することなく却下(または抗告棄却)の決定をした。これに対し、抗告人は、実質的理由につき判断を示さないことは憲法32条が保障する裁判を受ける権利に違反するとして特別抗告を行った。
事件番号: 昭和41(ク)122 / 裁判年月日: 昭和41年4月6日 / 結論: 却下
原決定のいかなる点がいかなる理由で憲法に違反するのか具体的に主張のない特別抗告は、不適法である。
あてはめ
憲法32条の趣旨は、裁判所へのアクセス権を保障し、適法な権利主張に対し公権的な判断を求める点にある(判例参照)。本件において、抗告人の忌避申立ては「申立の利益」を欠くと認定されている。申立の利益は訴訟要件の一つであり、これを欠く場合は不適法として門前払いされるのが民事訴訟制度の当然の前提である。実質的理由について判断を示さなかったとしても、それは不適法な申立てに対する適正な処理の結果であり、憲法上の権利を侵害するものとはいえない。
結論
本件忌避申立てには申立の利益がないため、裁判所が実質的理由について判断を示さなかったとしても憲法32条に違反しない。
実務上の射程
訴訟要件(訴えの利益・申立の利益)の具備が憲法上の権利行使の前提であることを確認する射程を持つ。答案上は、訴訟要件を欠くことによる却下判決・決定が裁判を受ける権利の侵害(憲法違反)であると主張された際の反論・否定根拠として利用できる。
事件番号: 昭和46(し)56 / 裁判年月日: 昭和46年7月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官について、不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない場合には、憲法32条に違反せず、忌避の事由には当たらない。 第1 事案の概要:申立人が特定の裁判官(深田源次裁判官)に対し、憲法32条違反(裁判を受ける権利の侵害)を理由として、不公平な裁判をするおそれがあるとして忌避を申し立てたが、原…
事件番号: 昭和45(ク)191 / 裁判年月日: 昭和45年9月29日 / 結論: 棄却
民訴法三七条にいう忌避の原因となるべき「裁判官二付裁判ノ公正ヲ妨クヘキ事情アルトキ」とは、裁判官と具体的事件との間に客観的に公正な裁判を期待しえないような人的、物的に特殊な関係がある場合をいい、具体的事件と直接無関係な裁判官としての適格性、行状、思想、単なる法律上の見解等に関する一般的事由は、忌避の原因を構成しないと解…
事件番号: 昭和31(ク)233 / 裁判年月日: 昭和31年9月14日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法上特に許された場合に限られ、民事事件においては旧民訴法419条の2(現行民訴法336条)の特別抗告に限定される。憲法違反を主張しても、その実質が単なる事実誤認の主張にすぎない場合は、適法な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人は、裁判官の…
事件番号: 昭和26(ク)10 / 裁判年月日: 昭和26年5月24日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が民事事件の抗告について裁判権を有するのは、法律により特に許された場合に限られ、その抗告理由は原決定における憲法判断の不当性に限定される。 第1 事案の概要:抗告人が最高裁判所に対して抗告を申し立てた事案。抗告人が主張した抗告理由は、原決定において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合する…