判旨
裁判官が共犯者の公判審理を通じて被告人の事件内容に関する知識を得たとしても、その一事をもって除斥事由や忌避理由にはならず、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反しない。
問題の所在(論点)
裁判官が共犯者の公判審理に関与し、有罪判決を言い渡した後に、分離された被告人の事件を審理することが、憲法37条1項の「公平な裁判所」の保障に反するか。また、これが除斥事由や忌避理由にあたるか。
規範
裁判官が職務の執行から除斥(刑訴法20条)され、または忌避(同21条)の理由がある場合でない限り、その裁判官による審理判決は憲法37条1項にいう「公平な裁判所」による裁判であると解される。裁判官が共犯者の公判審理や有罪判決の言い渡しを通じて、被告人の事件内容に関する知識を得ていたとしても、その一事をもって職務の執行から除斥されるものではなく、また不公平な裁判をするおそれがあるものとして直ちに忌避の理由があるものと断ずることもできない。
重要事実
被告人とその共犯者らが共同被告人として起訴されたが、後に被告人の弁論が分離された。第一審裁判所の裁判官は、分離された共犯者らの公判審理を先に担当し、共犯者らに対して有罪判決を言い渡した。その後、同一の裁判官が被告人の事件についても審理を行い、判決を言い渡した。これに対し被告人側は、裁判官が共犯者の審理を通じて事前に事件の知識を有しており、不公平な裁判であって憲法37条1項等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一審裁判官が共犯者の審理により被告人の事件内容に関する知識を得たことは事実であるが、それは職務遂行上の過程で得られたものに過ぎない。判決裁判所の裁判官が除斥事由に該当せず、かつ忌避の理由も認められない場合には、憲法37条1項の違反をいうことはできない。この理は、裁判官が共犯者に有罪判決を言い渡した後に被告人の審理を行う場合であっても、裁判官が予断を持って不公平な裁判をするおそれがあるとは速断できないため、同様に適用される。
結論
本件の裁判官に除斥事由や忌避の理由はなく、共犯者の有罪判決後であっても被告人を審理判決することは憲法37条1項に違反しない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法上の除斥事由(20条各号)は限定列挙であり、共犯者の審理に関与したことはこれに含まれない。答案上、裁判の公正さが問題となる場面では、具体的状況から「不公平な裁判をするおそれ」という忌避事由の有無を検討すべきだが、単なる職務上の知識習得のみでは忌避事由を肯定できないとする本判例の枠組みは、実務上極めて硬い規範として機能する。
事件番号: 昭和49(あ)464 / 裁判年月日: 昭和52年2月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】対向犯の関係にある別個の被告事件の審判に関与した裁判官が、本件被告事件の審理判決に関与したとしても、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」による裁判に反しない。 第1 事案の概要:被告人の贈賄被告事件を審理する原審裁判所において、裁判官2名が、本件と対向犯の関係にあるAの収賄被告事件の審判に既に関与…
事件番号: 昭和26(れ)2242 / 裁判年月日: 昭和27年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、裁判所の構成等において偏頗の恐れがない裁判を指す。被告人に対する量刑が共犯者等の他被告人と比較して重いとしても、直ちに不公平な裁判にあたるわけではない。 第1 事案の概要:被告人A(B)、C、D、Eらは刑事事件で起訴され、原審において有罪判決を受…