現行刑法が憲法第九八条第一項により昭和二二年五月三日限り当然失効しており同法を適用した原判決は右憲法の規定に違反すると主張するが、その採るべからざることは所論引用の昭和二三年(れ)第一一四〇号同二四年四月六日大法廷判決の示すとおりであるから、論旨は之を排斥する。
現行刑法の適用と憲法第九八条第一項。
憲法98条1項,刑法全文,刑法211条
判旨
検察官が第一審の有罪判決に対してより重い刑を求めて控訴することは憲法39条に違反せず、また控訴審が記録の検討に基づき量刑不当として一審判決を破棄し、より重い刑を科すことも憲法37条1項、76条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
検察官が第一審の有罪判決に対し、より重い刑を求めて控訴すること、および控訴審が量刑不当を理由に第一審より重い刑を科すことが、二重の危険の禁止(憲法39条)、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利(37条1項)、裁判官の職権行使の独立(76条3項)に違反するか。
規範
1. 検察官による上訴(控訴)は、被告人を二重の危険(憲法39条)にさらすものではない。2. 控訴審において記録の検討に基づき量刑不当として第一審判決を破棄し、より重い刑を量定することは、裁判の公正や裁判官の独立(憲法37条1項、76条3項)に反しない。
重要事実
第一審で有罪判決を受けた被告人に対し、検察官が量刑不当を理由に、より重い刑を求めて控訴した。控訴審(原審)は、第一審判決を量刑不当として破棄し、被告人に対してより重い刑を言い渡した。これに対し被告人側は、検察官による重刑追求の控訴は二重の危険を禁じた憲法39条に違反し、また控訴審が記録の検討のみで重刑を科したことはマスコミの影響を受けた不公正な裁判であり憲法37条1項、76条3項等に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和47(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和48年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官控訴に基づき、量刑不当を理由に第一審判決を破棄して自判することは、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡された後、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、この検察官控訴を理由が…
あてはめ
1. 検察官の控訴については、既存の大法廷判例(昭和25年5月24日判決等)の趣旨に照らし、一連の訴訟手続の継続と解されるため、憲法39条の二重の危険には抵触しない。2. 控訴審による量刑の引上げについては、記録を精査しても、弁護人が主張するような「マスコミに動かされた」といった事情は認められない。したがって、控訴審が記録検討に基づき適正な刑を量定する行為は、裁判の公正を害するものではなく、裁判官が憲法及び法律に従い独立して職務を行ったものと評価される。
結論
検察官による不利益な控訴および控訴審による量刑の引上げは合憲である。本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法における不利益変更禁止の原則(402条)は「被告人が控訴した場合」にのみ適用されるものであり、検察官が控訴した場合には適用されないことを憲法上の観点から裏付ける判例である。答案上は、検察官控訴の合憲性や、二重の危険の概念が確定判決までの一連のプロセスを指す(継続的危険説)ことの論拠として利用できる。
事件番号: 昭和59(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による量刑不当を理由とした控訴申立てに基づき、控訴審が第一審判決を破棄して被告人に不利益な刑を言い渡すことは、憲法39条(二重処罰の禁止)および憲法37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡されたが、検察官がその量刑が軽すぎる…
事件番号: 昭和48(あ)2707 / 裁判年月日: 昭和49年2月21日 / 結論: 棄却
検察官が控訴を申し立てて第一審判決の刑より重い刑の判決を求め、控訴裁判所が右申立を理由ありと認めて第一審判決を破棄しこれより重い刑を言い渡すことが憲法三九条に違反するものでないことは、昭和二四年新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判決(刑集四巻九号一八〇五頁)の趣旨とするところである。