所論は、被告人が被害者に対して脅迫的言動をしたのは、債権行使のためであるから、脅迫罪が成立するのは格別恐喝罪は成立しないのにかかわらず、原判決が被告人を恐喝、同未遂罪に問擬したのは所論引用の判例に反するというのである。しかし所論引用の大正一二年(れ)第一八〇五号同一三年三月五日大審院判定、刑集三巻三号一七八頁は、すでに当裁判所の判例により変更されたものである(昭和二六年(れ)第七七号同年六月一日第二小法廷判決、刑集五巻七号一二二二頁・昭和二七年(あ)第六五九六号同三〇年一〇月一四日第二小法廷判決、刑集九巻一一号二一七三頁・昭和三一年(あ)第四六九号同三三年五月六日第三小法廷判決、刑集一二巻七号一三三六頁各参照)。
権利行使と恐喝罪成立の擬律は大審院判例に違反するか。
刑法405条3号,刑法249条,刑法222条,刑法35条
判旨
債権の行使を目的としていても、その手段としての脅迫的言動が社会通念上許容される範囲を超える場合には、恐喝罪の成立を妨げない。
問題の所在(論点)
権利行使の目的がある場合において、脅迫的な手段を用いて財物を交付させたときに、恐喝罪が成立するか(「不法領得の意思」ないし「違法性」の有無)。
規範
権利の行使として行われる財物の交付請求であっても、その手段が社会通念上、権利の行使として許容される範囲を逸脱する脅迫的言動である場合には、恐喝罪(刑法249条)が成立する。債権の存在は、恐喝罪の成立を直ちに否定する事情にはならない。
重要事実
被告人は被害者に対して債権を有しており、その回収を目的としていた。しかし、その回収の手段として、被害者に対して脅迫的な言動を及ぼし、財物の交付を要求(一部未遂)した。弁護人は、債権行使の目的がある以上、脅迫罪の成立はあり得ても恐喝罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
判決文には具体的な脅迫内容の詳細は記述されていないが、原審が認定した「脅迫的言動」が債権回収の手段としてなされたことを前提としている。最高裁は、大正時代の古い判例(債権があれば恐喝にならないとする趣旨)は既に変更されていると指摘し、本件における手段の違法性を踏まえ、恐喝罪および同未遂罪の成立を認めた原判決を正当とした。
結論
債権行使を目的とする場合であっても、手段が社会通念上相当と認められる範囲を超えるときは、恐喝罪が成立する。
実務上の射程
「権利行使と恐喝」に関するリーディングケースの一つである。答案上は、不法領得の意思のうち「権利者排除意思」の欠如を主張する反論に対し、手段の相当性が欠ける場合には不法領得の意思が認められる(または実質的な違法性が阻却されない)と論じる際に用いる。
事件番号: 昭和26(あ)1826 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権の行使等の正当な権利行使の手段として行われた恐喝行為であっても、その手段が社会通念上許容される範囲を超えている場合には、恐喝罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が、被害者に対して何らかの債権等(正当な権利)を有していたことを前提としつつ、その支払を求める手段として恐喝行為に及んだ事案である…
事件番号: 昭和32(あ)2716 / 裁判年月日: 昭和33年3月6日 / 結論: 棄却
恐喝罪における害悪通知の方法には制限がないから、第一審判決判示の如く被告人が被害者に判示暴行を加え、さらに判事の如く申し受けて同人をして若しその要求に応じないときはさらに暴行等いかなる危害を加えるかも知れないと畏怖せしめたような場合には、暴行も恐喝罪の手段となり得る。