判旨
被告人の自白の任意性に疑いがある場合であっても、記録上その自白が任意になされたものでないと認めるべき証跡が存しないときは、自白の証拠能力を否定することはできない。
問題の所在(論点)
被告人の自白が、任意になされたものでないとして、証拠能力が否定されるべきか(自白の任意性の有無)。また、自白が唯一の証拠として有罪の基礎とされているか(補強証拠の存否)。
規範
自白の証拠能力(刑事訴訟法319条1項)が否定されるためには、記録上その自白が任意になされたものでないと認めるべき証跡が存在することが必要である。
重要事実
被告人が自白の任意性を争い、また自白が唯一の証拠である旨を主張して上告した事案。原審判決においては、被告人の自白以外に、これを補強するに足りる他の証拠が挙げられていた。
あてはめ
本件記録を精査しても、被告人の自白が任意になされたものでないと認めるべき具体的な証跡は何ら存在しない。また、原審の判決において、被告人の自白のほかにこれを補強するに足りる他の証拠が適法に挙げられていることから、自白が唯一の証拠であるとの主張も前提を欠く。
結論
本件自白は任意性に欠けるとは認められず、また補強証拠も存在するため、証拠能力及び証明力の判断に憲法違反や判例違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
自白の任意性が争われる場面において、裁判所が証拠能力を認める際の基本的な判断態度を示している。実務上、任意性を否定する客観的な証跡の有無が決定的に重要となる。また、補強証拠の存在を確認することで、自白のみによる処罰を禁じた刑訴法319条2項・憲法38条3項の適合性を判断する際の基礎となる。
事件番号: 平成8(あ)613 / 裁判年月日: 平成11年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白の任意性を疑うに足りる証跡が認められない場合、当該自白の証拠能力を否定する余地はなく、憲法38条2項等の規定に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が自白を行った事件において、第一審判決後の第一次控訴審では無罪が言い渡されたが、検察官の上告を受けた第一次上告審がこれを破棄。差し戻し後の…
事件番号: 昭和29(あ)60 / 裁判年月日: 昭和29年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のほかに補強証拠が存在し、かつ自白が任意になされたものであると認められる場合には、有罪判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:本件において、被告人の自白が存在したが、弁護人は補強証拠の欠如及び自白の任意性の欠如を主張して上告した。原判決では自白以外の補強証拠の存在が認定されて…
事件番号: 昭和27(あ)5163 / 裁判年月日: 昭和29年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意性に疑いのある自白は証拠能力を欠くが、被告人及び弁護人が同意し、かつ記録上任意にされたものでないと疑うべき理由がない場合には、証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が司法警察員に対して行った各供述(自白調書及び上申書)について、弁護人は取調官による暴行、強制、誘導に基づいたものであ…