裁判官が裁判所、検察庁、警察署及び新聞報道関係者の出席する警察署主催の年末恒例の宴席に出席したというだけの理由では不公平な裁判をする虞があるとすることはできない。(事案は、平市における騒擾事件)
警察署検察庁等との年末恒例の宴席に出席した裁判官の裁判と公平な裁判所の裁判
憲法37条1項,刑訴法21条1項
判旨
裁判官が、刑事事件の当事者的立場にある警察署長主催の懇親会に出席し酒食を共にした場合であっても、それが地方の恒例行事であり、広範な関係者が参加する官民合同の形式であれば、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない。
問題の所在(論点)
裁判官が、担当事件の当事者的立場にある警察署が主催する懇親会に出席し、証人予定者らと酒食を共にしたことが、刑事訴訟法21条の「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当し、忌避の原因となるか。
規範
刑事訴訟法21条にいう「裁判の公平を欠く虞があるとき」とは、通常人の判断において裁判官が不公平な裁判をするのではないかとの疑念を抱く客観的事由がある場合を指す。判断にあたっては、裁判官と当事者等との接触の経緯、場所、参加者の範囲、および社会的慣習(恒例行事等)に照らし、その接触が裁判の公正さを害する蓋然性があるかを客観的に評価すべきである。
重要事実
被告人らの騒擾等被告事件を担当する裁判官3名が、年末に平市警察署長及び平地区警察署長が共同主催した料亭での懇親会に招待され、出席して酒食を共にした。同警察署は当該被告事件の当事者的立場にあり、証人として申請中の警視も同席していた。一方で、当該懇親会は地方の年末恒例行事であり、裁判官以外にも裁判所の他裁判官、検察庁関係者(7名)、新聞放送関係者(17名)など広範な関係者が参加する官民合同の会合であった。
事件番号: 昭和28(し)98 / 裁判年月日: 昭和29年1月16日 / 結論: 棄却
所論は法廷警察権の行使方法が法令に違反するということを前提とし、忌避の理由がある旨主張するに止まり、この点に関する原決定の判断は正当であるから、所論は憲法の各条規に違反するという前提を欠く。註。原決定は法廷警察権の行使に対しても刑訴三〇九条二項の異議を申し立てることができるが、この判断を誤つたからといつて忌避の理由あり…
あてはめ
裁判官らが警察署関係者と酒食を共にした事実は認められるが、本件懇親会は、①地方の年末恒例行事として行われてきたものであり、②主催者も単独ではなく共同主催であり、③参加者も当該裁判官のみならず、検察官や報道関係者を含む多人数による官民合同の会合であった。このような状況下での出席は、単に地方の恒例に従ったものと評価でき、裁判官が警察側と癒着して不公平な裁判を行うといった客観的な疑念を抱かせるには至らない。したがって、不公平な裁判をするおそれがあるとはいえない。
結論
本件裁判官らに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、忌避の申し立てを却下した原決定は正当である。
実務上の射程
裁判官の私的接触が「不公平」とされるかの境界線を示した事例。特に「地方の恒例行事」「広範な第三者の介在(特に報道機関)」という要素があれば、当事者側との接触であっても直ちに不公平とはされない傾向を示す。ただし、現代の倫理観や司法の信頼確保の観点からは、より厳格に解される可能性がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和29(し)69 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】逮捕状を発付した裁判官がその後の審判に関与したとしても、客観的に偏頗の惧れがある等の特段の事情がない限り、裁判の公平を欠くものではない。 第1 事案の概要:本件において、抗告裁判所の裁判官が過去に同一事件の逮捕状を発付していた。抗告人は、当該裁判官が審判に関与することは公平な裁判所による裁判を受け…
事件番号: 昭和28(し)93 / 裁判年月日: 昭和28年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項の「公平な裁判所」とは構成等に偏頗の惧れがない裁判所を指し、裁判官が外部の圧迫等に屈せず良識に従う限り、必要性のない証拠調べ請求の却下は違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人が、名古屋高等裁判所の特定の裁判官らによって構成された裁判部に対し、偏頗の惧れがあるとして裁判官忌避の申立て…
事件番号: 昭和47(し)50 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避事由である「不公平な裁判をする虞れ」(刑訴法21条)は、審理方式に過剰な便宜供与等の行き過ぎた点があるとしても、そのことから直ちに肯定されるものではない。 第1 事案の概要:付審判請求事件において、裁判所は、弁護士でない請求人らに対しても記録の閲覧謄写を認め、証拠調べに際して請求人でな…
事件番号: 昭和47(し)77 / 裁判年月日: 昭和47年10月13日 / 結論: 棄却
被告人に対する恐喝事件の受訴裁判所の裁判官として被告人に対する勾留更新決定を行ない、また保釈請求却下決定を行なつた裁判官が、その後右事件につき合議体で審理する旨の決定がなされ、右事件を審理する合議体の構成員になつたことは所論の通りであるが、そのために同裁判官が職務から除斥されることがないことは勿論、忌避の理由があるもの…