論旨後段は、憲法の保障する公開裁判の原則に反すると主張するけれども、所論裁判長の命令は、要するに法廷における被告人、傍聴人に対して拍手等法廷秩序の妨害となるがごとき所為をなさざるよう予め注意を喚起するの趣旨に出でたもので、もとより当然の事理に属するところであつて、被告人らが右の命令に反する所為をしないかぎり、その在廷を拒まれるものでないことは、その命令の内容自体から、極めて明白であつて、右の命令を以て公開の原則に反するとの論旨は、畢竟右命令の曲解を前提とするものであつて、また特別抗告の適法な理由とすることはできない。
法廷秩序維持のためにした裁判長の退去命令と裁判公開の原則
刑訴法288条2項,憲法37条1項
判旨
裁判長が法廷秩序を維持するために行う命令(刑事訴訟法288条2項)は、同法309条2項にいう「裁判長の処分」には含まれない。また、法廷秩序を妨げる行為をしないようあらかじめ注意喚起する命令は、被告人の在廷を拒むものではなく、憲法上の裁判の公開の原則に反しない。
問題の所在(論点)
1. 裁判長が法廷警察権に基づき行う秩序維持のための処分(刑訴法288条2項)に対し、刑訴法309条2項に基づく異議申立てをすることができるか。 2. 法廷秩序妨害をあらかじめ禁ずる命令は、憲法の保障する公開裁判の原則に反するか。
規範
刑事訴訟法288条2項に基づく裁判長の法廷警察権の行使(退廷命令等の秩序維持処分)は、訴訟手続の円滑な進行自体を直接の目的とするものであり、証拠調等の訴訟行為に関する不服申立てを定めた同法309条2項の「裁判長の処分」には含まれない。また、法廷秩序の妨害を禁止する注意喚起的な命令は、秩序を乱さない限り在廷を認めるものであるため、公開の原則に抵触しない。
重要事実
騒擾助勢等被告事件の公判期日において、裁判長が法廷警察権の行使として、被告人および傍聴人に対し、拍手等の法廷秩序の妨害となる行為をしないよう命じた。これに対し弁護人らが異議を申し立てたが、裁判長は、本件命令は刑訴法309条2項の「裁判長の処分」に含まれないため異議申立ては不適法であるとして、これを却下する決定を宣告した。抗告人は、この解釈の誤りおよび公開裁判の原則違反を理由に特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和27(し)31 / 裁判年月日: 昭和28年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判廷において傍聴人が大声を発し審理不能となった場合、裁判官が傍聴人全員に退廷を命じる訴訟指揮は適法であり、憲法違反にはあたらない。また、被告人の言語能力を考慮して日本語を使用させる判断も、適正な手続の一環として認められる。 第1 事案の概要:暴行傷害被告事件の原審公判廷において、傍聴人が一斉に大…
あてはめ
1. 刑訴法288条2項の処分は法廷の秩序維持を目的とする行政的・警察的性質を有するものであり、309条2項が予定する訴訟手続上の処分とは性質を異にする。したがって、これに対する異議申立てを不適法とした原決定の判断は正当である。 2. 本件命令の内容は、拍手等の秩序妨害行為をしないようあらかじめ注意を喚起する趣旨にすぎない。被告人らが当該命令に反する行為をしない限りその在廷が拒まれることはなく、実質的に傍聴や出頭を制限するものではないから、公開の原則に反するとの主張は前提を欠く。
結論
本件命令に対する異議申立てを不適法とした処分は妥当であり、また当該命令は憲法の公開裁判の原則に違反しないため、特別抗告を棄却する。
実務上の射程
法廷警察権の行使(刑訴法288条)に対する不服申立ての可否が問われる場面で活用できる。裁判長の訴訟指揮(309条2項の対象)と法廷警察権(対象外)を区別する際の根拠となる。また、公開原則の限界として、実質的な公開が維持されている限り、秩序維持のための事前の制約は許容されることを示す際に参照すべきである。
事件番号: 昭和28(し)8 / 裁判年月日: 昭和28年3月6日 / 結論: 棄却
裁判官が裁判所、検察庁、警察署及び新聞報道関係者の出席する警察署主催の年末恒例の宴席に出席したというだけの理由では不公平な裁判をする虞があるとすることはできない。(事案は、平市における騒擾事件)
事件番号: 昭和28(し)98 / 裁判年月日: 昭和29年1月16日 / 結論: 棄却
所論は法廷警察権の行使方法が法令に違反するということを前提とし、忌避の理由がある旨主張するに止まり、この点に関する原決定の判断は正当であるから、所論は憲法の各条規に違反するという前提を欠く。註。原決定は法廷警察権の行使に対しても刑訴三〇九条二項の異議を申し立てることができるが、この判断を誤つたからといつて忌避の理由あり…
事件番号: 昭和27(し)33 / 裁判年月日: 昭和29年6月30日 / 結論: 棄却
本件特別抗告理由は、原決定の違憲を主張するけれども、その実質は申立人にかかる傷害被告事件の原審公判廷において、傍聴人が大声を発し審理不能となつたことを理由として傍聴人全員に退廷を命じた裁判官の起訴指揮は違法であると主張し、また、被告人が朝鮮人であるから充分の資料に基いて日本語を使用せしむべきか否かを判断すべきに拘らず、…
事件番号: 昭和28(し)92 / 裁判年月日: 昭和28年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判手続において、適用される刑罰法令の違憲が主張された場合でも、裁判所が事実審理に先立って当該法令の違憲性について審判を先行させることは憲法上要求されない。 第1 事案の概要:刑事被告人側が、公訴事実に適用される公安条例について違憲であると主張した。これに対し、裁判所が違憲性についての審判を先行さ…