原判決は第一審第九回公判期日において所論Aの尋問調書の証拠調の施行について、被告人及び弁護人において異議を述べた形跡が窺われないから、右尋問調書中伝聞供述記載部分をも証拠とすることに同意したものと認めることができるとしているけれども、被告人は第一審公判において密入国事実を全面的に否認しているのであるから同公判調書の記載内容から考えて、被告人及び弁護人が前記尋問調書の証拠調に異議を述べなかつた一事をもつて直ちに同調書中伝聞証拠の供述記載の証拠能力までも認めるに同意したものと推断することはできない。しかしながら同調書中から右伝聞証拠である供述記載の部分の除いた部分及び第一審判決挙示のその他を綜合すれば同判決の判示事実を認めるに難くないから、第一審判決が本件尋問調書の全般に亘つて罪証に供した違法があるけれども、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
刑訴法第四一一条にたらない一事例 ―同意のないのにかかわらず伝聞供述をふくむ証人尋問調書の全般に亘つて罪証に供した場合―
刑訴法324条,刑訴法335条1項,刑訴法411条,刑訴法326条
判旨
被告人が公判で事実を全面的に否認している場合、証拠調べに対して異議を述べなかったという事実のみをもって、直ちに伝聞部分の証拠能力までをも認める同意(刑訴法326条)があったと推断することはできない。
問題の所在(論点)
被告人が公判で起訴事実を全面的に否認している場合において、証拠調べに対して異議を述べなかった事実のみから、刑訴法326条の同意(伝聞証拠の証拠能力付与)があったと認定できるか。
規範
刑訴法326条1項に基づく証拠同意の有無は、被告人または弁護人の訴訟上の態度を総合して判断されるべきである。特に、被告人が起訴事実を全面的に否認している場合には、単に証拠調べの手続に対して異議を申し立てなかったという消極的な態度のみをもって、伝聞部分を含めた証拠能力を認める黙示の同意があったと擬制することは許されない。
重要事実
被告人が密入国の事実で起訴された事案において、第一審の公判期日でAの尋問調書の証拠調べが行われた。被告人と弁護人はこの証拠調べに対して特段の異議を述べなかった。一方で、被告人は第一審公判を通じて密入国の事実を全面的に否認し続けていた。原審は、異議がなかったことをもって、伝聞供述記載部分についても証拠とすることに同意があったと認定した。
あてはめ
本件において被告人は、密入国の事実を全面的に否認しており、無罪を強く主張している。このような訴訟状況下では、証拠の内容を争う意思があることは明らかである。したがって、証拠調べにおいて異議を述べなかったという一事のみをもって、直ちに伝聞部分を含む証拠能力を認める同意があったと推断することは、被告人の防御活動の実態に反し、不合理である。よって、原審が本件尋問調書の全般にわたり証拠能力を認めて罪証に供した点は、法令の解釈を誤った違法があるといえる。
結論
被告人が否認を続けている以上、異議を述べないことのみで伝聞部分への証拠同意があったと認めることはできない。もっとも、本件では伝聞部分を除いた他の証拠により犯罪事実が認められ、判決に影響を及ぼすべき法令違反とはいえないため、上告は棄却される。
実務上の射程
証拠同意の成否、特に『黙示の同意』の認定限界に関する判例である。否認事件においては、弁護人の消極的な態度のみから同意を認めることに対し抑制的な態度を示しており、伝聞証拠の証拠能力を争う際の反論根拠として機能する。ただし、本判決のように、一部に伝聞が含まれる場合でも、それ以外の証拠で事実認定が可能であれば、411条等の救済事由に至らない点にも留意が必要である。
事件番号: 昭和28(あ)3713 / 裁判年月日: 昭和28年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由として違憲の主張をする場合には、対象となる法令が憲法のどの条項に、なぜ違反するのかという具体的理由を摘示しなければならず、単に法令が違憲であると述べるだけでは不適法である。 第1 事案の概要:被告人が出入国管理令違反等の罪に問われた事案において、弁護人は上告趣意書の中で出入国管理令が違憲で…