判旨
職員が職務上所属組織に代わって物品を売却し受領した代金は、受領と同時に組織に帰属する。したがって、当該代金を組織に納入せず自己の用途に充てる行為は、業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
職員が職務上、組織の物品を売却して受領した代金の所有権は誰に帰属するか。また、その代金を着服する行為は業務上横領罪(刑法253条)を構成するか。
規範
業務上横領罪(刑法253条)における「他人の物」とは、法的に委託を受けて保管する他人の所有物を指す。職員が組織の代理人・代行者として第三者から金銭を受領した場合、その金銭の所有権は直ちに組織に帰属し、受領した職員は組織のためにこれを保管する関係に立つ。
重要事実
国立病院の職員である被告人は、病院の所有物である晒木綿を、病院に代わって職務上第三者に売却した。被告人は、その売渡代金を受領したが、これを病院に納入することなく、ガーゼ繃帯の購入代金との差益金を自己の用途に充てる目的で領得した。
あてはめ
本件において、晒木綿は国(病院)の所有物であり、被告人は病院に代わってこれを売却し代金を受領している。このとき、受領した代金は直ちに病院に帰属するため、被告人にとって「他人の物」にあたる。被告人はこの代金を病院のために業務上保管する立場にありながら、自己の用途に充てる目的で領得しており、不法領得の意思が認められる。
結論
被告人の行為は業務上横領罪を構成する。受領代金が組織に帰属することを前提とした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
集金業務に従事する者が、顧客から受領した現金を会社に払い込む前に着服する事例に広く射程が及ぶ。受領した瞬間に占有と所有が分離し、委託物としての性質を帯びることを示す重要な判断指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)679 / 裁判年月日: 昭和31年2月28日 / 結論: 棄却
「横領罪は、他人の物を保管する者が、他人の権利を排除してほしいままにこれを処分すれば、それによつて成立する」ものであることは、当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)九三〇号同二四年六月二九日大法廷判決、集三巻七号一一三五頁参照)