判旨
判決文に直接の記載はないが、公職選挙法違反の罪において、関係者の住所地や証拠関係からその者が選挙人であることが自明であれば、判決書にその旨を明示しなくとも違法ではないとする。
問題の所在(論点)
公職選挙法違反の成否に関わる「選挙人」であるとの事実について、判決書に明文の認定がない場合であっても、他の記載事項からそれが自明であれば適法といえるか。
規範
判決書の記載事項として、犯罪の構成要件に該当する事実が客観的に示されている必要があるが、関係者の身分(選挙人であること等)が、判決書の他の記載事項(住所・肩書等)や引用された証拠との照らし合わせにより当然に導き出される場合には、明示的な認定が欠けていても判決の違法とはならない。
重要事実
被告人が公職選挙法違反の罪に問われた事案において、第一審判決では関係者(被告人、Aほか2名、Bほか3名)が長野県第2区の選挙人であるという事実が直接的に記述されていなかった。しかし、判決書には各人の肩書および住所地が記載されており、挙示された証拠と照らし合わせれば、彼らが同選挙区の選挙人であることは明白であった。弁護人は、この認定の欠如が判例違反であるとして上告した。
あてはめ
本件第一審判決には、被告人および関係者の住所地ならびに肩書が明記されている。これらの記載内容を挙示された証拠と照らし合わせて検討すれば、当該関係者らがいずれも長野県第2区の選挙人であることは「おのずからわかる」ものと認められる。したがって、判決文の文面上、選挙人たる事実の認定に欠けるところはなく、実質的に罪となるべき事実が示されているといえる。
結論
原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
判決書における事実認定の程度に関する判断。構成要件要素となる属性について、証拠や他の記載から論理的に不可避に導かれるのであれば、明示的な文言を欠いても刑事訴訟法上の理由不備や事実誤認には当たらないという柔軟な解釈を示すものである。
事件番号: 昭和28(あ)3202 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法221条1項4号の買収罪において、判決書に「選挙人にして」と記載されている場合、それが特定の選挙区の選挙人である趣旨であることが証拠等から明白であれば、罪刑法定主義や構成要件の認定として欠けるところはない。 第1 事案の概要:被告人は、長野県第2区における選挙に関して買収行為を行ったとし…